親から実家を相続したものの、誰も住む予定がなく売却したい。こうした場合、通常の不動産売却より先に整理しなければならないことがあります。
重要なのは、いきなり不動産会社へ売却を依頼することではなく、誰が相続人なのか、誰が実家を取得するのか、売却代金を誰がどの割合で受け取るのかを整理することです。
相続人が複数いる場合には、遺産分割の方法によって登記・売却・税務の扱いが変わります。
相続登記を済ませればすべて終わりというわけでもありません。相続した実家を売却すると、親が購入したときの取得費、譲渡所得、相続税の取得費加算、一定の空き家に使える3,000万円特別控除なども関係します。
売却後に家族間や税務上の問題を残さないため、相続手続きと不動産売却を一つの流れとして整理していきます。
相続した実家を売却する流れ
相続後の実家売却は、一般的に次の順番で進めると整理しやすくなります。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人を確認する
- 相続放棄を検討する必要がないか確認する
- 遺産分割の方法を決める
- 実家を取得する人について相続登記を行う
- 取得費に関係する書類・家財を確認する
- 複数の不動産会社へ査定を依頼する
- 仲介・買取など売却方法を決める
- 売買契約・決済・引渡しを行う
- 譲渡所得・利用できる特例を確認して確定申告を行う
実際には相続登記と不動産査定を並行して進めることもできます。
ただし、売却価格だけを先に決め、相続人間の分け方を後回しにすると、契約直前になって手続きが止まることがあります。
最初に遺言書と相続人を確認する
親が亡くなったら、まず遺言書の有無と相続人を確認します。
「兄弟3人だから3人で3分の1ずつ」と思っていても、遺言がある、以前の婚姻で子がいる、相続人の一人が先に亡くなっているなど、実際の相続関係が想定と異なることがあります。
誰が相続人か確定していない状態で、不動産の分け方や売却代金の割合だけを決めないようにします。
戸籍収集が複雑な場合や、相続人の所在が分からない場合は、司法書士・弁護士等への相談も検討してください。
相続放棄を考えているなら売却を先に進めない
親に借金がある可能性などから相続放棄を検討している場合は、実家の売却や価値のある家財の処分を先に進めない方がよいでしょう。
相続放棄は、原則として自己のために相続が開始したことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申述します。
また、相続財産の処分は状況によって法定単純承認との関係が問題になる場合があります。
ただし、「家財を一つ動かしたら必ず相続放棄できない」という単純な制度でもありません。相続放棄を検討している場合は、不動産を売ったり価値のある物を処分したりする前に、家庭裁判所の案内や弁護士・司法書士等へ確認してください。
相続人が複数いる場合は遺産分割方法を決める
兄弟姉妹など複数の相続人がいる場合、実家を誰が取得するかを遺産分割で決めます。
不動産では主に次のような方法があります。
| 分割方法 | 内容 | 実家売却との関係 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 財産をそのまま相続人へ分ける | 一人が実家、別の人が預貯金などを取得する場合など |
| 代償分割 | 一人が実家を取得し、他の相続人へ代償金を支払う | 実家を残したい人がいる場合に使われる |
| 換価分割 | 実家を売却して現金にし、その代金を分ける | 誰も実家を使わず、売却する場合に検討しやすい |
| 共有 | 複数の相続人で不動産を共有する | 将来の売却・管理について共有者間の調整が必要になる |
実家を売却して代金を相続人間で分けたい場合は、「換価分割」が選択肢になります。
換価分割とは?
換価分割とは、相続財産を売却して金銭に換え、その売却代金を相続人の間で分ける遺産分割方法です。
一つの家や土地は物理的に均等分割しにくいため、「実家そのものは誰も欲しくないが、相続財産として公平に分けたい」という場合に検討できます。
たとえば、相続人が兄と妹の2人で、実家を売却した後の代金を2分の1ずつ取得する、と遺産分割で決める方法です。
ただし、換価分割では「誰の名義で登記して売るか」「売却費用をどこから負担するか」「代金をどの割合で分けるか」を曖昧にしないことが重要です。
代表者一人の名義で売って、後で兄弟へ分けても大丈夫?
換価の便宜上、共同相続人のうち一人の名義へ相続登記したうえで売却する方法が検討されることがあります。
国税庁の質疑応答事例では、一人名義への相続登記が単に換価のための便宜であり、その後、調停で定めた内容に従って売却代金を実際に分配する事例については、その分配で贈与税が問題になるものではないとしています。
ただし、これは「とりあえず一人名義にして、後で好きな金額を兄弟へ振り込めばよい」という意味ではありません。
遺産分割協議の内容、登記方法、売却代金の分配方法、譲渡所得の申告には一貫性が必要です。
一人の名義へ集約して換価する予定なら、遺産分割協議書を作成する段階で司法書士・税理士等へ確認しておく方が安全です。
共有名義にした実家を売る場合
兄弟姉妹などが実家を共有で相続登記した場合、実家全体を第三者へ売却するには、原則として共有者全員の合意・協力が必要です。
売却価格、売出時期、値下げ、買主との契約条件などについて一人でも意見が違うと、売却手続きが止まる可能性があります。
そのため、「いったん共有名義にして、後で考える」と決める前に、本当に誰かが実家を利用するのか、最初から売却して換価分割するのかを話し合っておくことが重要です。
すでに共有登記済みの場合は、各共有者の売却意思を確認し、不動産会社へ共有状態であることを最初から伝えてください。
相続登記をしないまま実家を売却できる?
親が亡くなった後も登記名義が親のまま残っている場合、亡くなった人から買主へそのまま売買による所有権移転登記をすることはできません。
相続によって実家を取得する人への相続登記を行い、その後、買主への所有権移転登記を行います。
不動産会社への査定相談や売却準備自体は相続登記と並行できることがありますが、決済・引渡しまでに必要な登記を整えるスケジュールを司法書士や不動産会社と確認します。
相続登記は2024年4月から義務
相続登記は2024年4月1日から義務化されています。
相続によって不動産を取得したことを知った場合、原則として、その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
2024年4月1日より前に相続したことを知っており、現在も相続登記をしていない不動産についても義務化の対象で、原則として2027年3月31日までに申請する必要があります。
正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
また、遺産分割が成立して不動産を取得した場合には、遺産分割成立日から3年以内に、その内容に応じた登記を行う追加的な義務もあります。
相続人申告登記をしていれば売却できる?
相続人申告登記は、相続登記の申請義務を期限内に簡易に履行するための制度です。
しかし、相続人申告登記は、不動産を誰がどの持分で取得したかという権利関係を登記する制度ではありません。
法務省も、相続した不動産を売却する場合には相続登記が必要と案内しています。
「相続人申告登記をしたから売却準備は完了」と考えず、遺産分割の結果等に基づく相続登記を進めます。
相続登記の前後で不動産査定はできる
相続登記が終わるまで、不動産の価格を一切調べられないわけではありません。
遺産分割を検討するときにも実家の現在価値は重要です。
たとえば、一人が実家を取得して他の兄弟へ代償金を支払う場合は、実家をいくらと評価するかで代償額が変わります。
換価分割を考える場合でも、売却可能価格を把握しておけば、相続人間で売却方針を話し合いやすくなります。
そのため、相続人と売却方針がある程度見えてきたら、複数の不動産会社へ査定を依頼し、現在の市場価格を確認しておく方法があります。
家財を全部処分してから売却査定する必要はない
相続した実家には、親の家財や遺品が大量に残っていることがあります。
査定を受けるために、家の中を完全に空にしておく必要があるとは限りません。
むしろ処分前に、税金や売却に関係する書類を探してください。
- 親が実家を購入したときの売買契約書
- 建築請負契約書
- 購入時の領収書
- 仲介手数料等の資料
- 増改築・リフォーム資料
- 土地測量関係資料
- 権利証・登記識別情報
特に親の購入価格を示す資料は、売却後の譲渡所得を計算する際の取得費に関係します。
相続した実家の取得費は「相続税評価額」ではない
相続した家を売却するときに誤解されやすいのが取得費です。
相続時に土地や建物を評価した金額を、そのまま売却時の取得費として使うわけではありません。
原則として、被相続人がその土地・建物を購入したときの購入代金や購入手数料などを基に取得費を計算します。
また、取得時期も原則として被相続人から引き継ぎます。
つまり、親が30年前に購入した家を相続して翌年売却した場合でも、所有期間の判定を単純に「相続して1年」とはしません。
親がいくらで買ったか分からない場合
実家を何十年も前に購入しており、売買契約書が見つからないこともあります。
取得費が分からない場合などには、売却価額の5%相当額を概算取得費とする方法があります。
ただし、5%で計算すると取得費が小さくなり、結果として譲渡所得が大きくなる場合があります。
すぐ概算取得費を使うと決めるのではなく、親の書類、通帳、住宅購入時の資料、建築関係資料などを探してください。
相続税を払った場合は「取得費加算の特例」を確認する
実家を相続し、その相続について相続税を支払っている場合、一定期間内に実家を売却すると、相続税額の一部を譲渡所得の計算上の取得費へ加算できる場合があります。
これを「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」などと呼びます。
主な要件は、相続または遺贈で財産を取得していること、その財産を取得した人に相続税が課税されていること、一定の期間内にその財産を売却していることです。
期間は、相続開始の日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。
相続税を払っていない人が自動的に使える制度ではありません。
相続空き家の3,000万円特別控除とは?
一定の条件を満たす親の自宅を相続して売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」を利用できることがあります。
2026年時点では、一定の要件を満たし、2027年12月31日までに売却したものが対象です。
ただし、相続した実家ならすべて利用できる制度ではありません。
対象家屋には、原則として次のような要件があります。
- 1981年5月31日以前に建築された家屋である
- 区分所有建物ではない
- 相続開始直前に被相続人以外の居住者がいなかった
- 相続から売却まで事業・賃貸・居住に使用していない
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する
- 売却代金が1億円以下である
このほか、建物の耐震性や取壊しなど、売却方法に応じた要件があります。
売却前に必ず解体しないと3,000万円控除は使えない?
必ず売却前に解体しなければならないわけではありません。
2024年1月1日以後に行う一定の譲渡では、家屋を売却した後、売却した年の翌年2月15日までに耐震基準を満たす工事を行う、または家屋を取り壊すことで、特例の対象となる類型があります。
そのため、「特例を使うためには売却前に必ず更地にする」と考えて、査定前に解体する必要はありません。
解体費や売却価格にも影響するため、古家付きで売った場合、更地にした場合、売却後に買主側等で取壊しを行う条件などを含めて、不動産会社と税理士等へ確認します。
相続人が3人以上なら控除額に注意する
相続空き家の特別控除は「全員必ず3,000万円」とは限りません。
2024年1月1日以後の譲渡で、被相続人居住用家屋・敷地等を相続または遺贈で取得した相続人の数が3人以上の場合、1人あたりの控除上限は2,000万円になります。
兄弟3人で相続している場合などは、この点も売却前に確認してください。
親が老人ホームに入っていた実家も対象になる?
親が亡くなる直前には老人ホームや介護施設で生活し、実家には住んでいなかったケースもあります。
一定の要介護・要支援認定等を受けて老人ホーム等へ入所していたなど、国税庁が定める要件を満たす場合は、入所前に住んでいた実家が相続空き家特例の対象となる可能性があります。
施設入所後の実家を他人へ貸していた、別の家族が住んでいたなど、利用状況によって判定が変わるため、施設入所の事実だけで対象と決めないでください。
3,000万円控除と取得費加算は同じ売却で併用できない
相続税を支払っていて取得費加算の特例を使える人が、相続空き家の3,000万円特別控除にも該当することがあります。
しかし、同じ家屋・敷地等の売却について、相続空き家の3,000万円特別控除と相続税額の取得費加算の特例を併用することはできません。
どちらを使った方が有利になるかは、売却益、親の取得費、相続税額などによって変わります。
売買契約後に初めて比較するのではなく、売却を具体化する段階で税理士等へ試算を依頼すると判断しやすくなります。
換価分割した実家の譲渡所得は誰が申告する?
換価分割では、「代表者が売買代金を一度受け取ったから、代表者だけが譲渡所得を申告する」とは限りません。
国税庁は、換価時までに換価代金の取得割合が決まっている場合、その取得割合と同じ所有割合で譲渡したものとして、各相続人がその割合に応じて譲渡所得を申告する考え方を示しています。
一方、未分割のまま売却し、売却後に代金を分ける場合には、換価時点の所有割合や申告期限までに分割が行われたかなどによって申告関係が変わります。
このため、換価分割を予定している場合は、遺産分割協議書、登記、売却代金の受取口座、各人の確定申告を別々に考えず、売却前に税理士・司法書士等へ確認しておくことが重要です。
売却価格は相続人全員で共有してから決める
換価分割や共有で実家を売る場合、不動産会社を選ぶ人だけで査定価格を管理しない方がよいでしょう。
相続人全員が、少なくとも次の内容を確認できるようにしておくと、後のトラブルを減らしやすくなります。
- 各不動産会社の査定額
- 査定額の根拠
- 想定売却期間
- 仲介と買取の価格差
- 仲介手数料
- 家財処分費
- 測量費
- 必要な解体・修繕費
- 最終的な手取り見込み
一番高い査定額を出した会社へ自動的に依頼するのではなく、実際に成約可能な価格と売却方法を比較します。
古い実家でも先に解体するとは限らない
相続した実家が古いと、「どうせ売るなら解体して更地にしよう」と考えることがあります。
しかし、解体すると元には戻せません。
- 古家付きのまま購入する買主がいる可能性
- 中古住宅として利用できる可能性
- 解体費を売主が先に負担する必要
- 土地の固定資産税への影響
- 再建築条件
- 相続空き家の3,000万円特別控除との関係
を確認してから判断します。
まず古家付きのまま査定を受け、更地にした場合の想定価格と実際の解体見積額を比較する方が判断しやすくなります。
売却後に手元へ残る金額で比較する
兄弟で実家を売却して分ける場合は、売却価格だけでなく、売却にかかる費用や税金を差し引いた後の金額を確認します。
主な費用には次のものがあります。
- 不動産会社の仲介手数料
- 印紙税
- 相続登記・売却登記に関する費用
- 家財処分費
- 測量・境界確認費
- 解体費
- 譲渡所得に対する税金
売却代金3,000万円を3人で1,000万円ずつ分ける、と先に考えるのではなく、費用負担や税務上の取得割合まで含めて整理します。
相続した実家を売却するときのチェックリスト
- 遺言書の有無を確認した
- 相続人を確定した
- 相続放棄を検討する必要がないか確認した
- 実家を売ることについて相続人間で話し合った
- 換価分割・代償分割・共有など分割方法を決めた
- 売却代金の取得割合を決めた
- 遺産分割協議書の内容を確認した
- 相続登記を進めた
- 相続人申告登記だけで止まっていない
- 親の購入時資料を探した
- 複数の不動産会社から査定を取る
- 仲介・買取を比較する
- 古家付きのまま売れるか確認した
- 取得費加算の対象になるか確認した
- 相続空き家3,000万円控除の対象になるか確認した
- どの特例を使うか税務上比較した
- 各相続人の確定申告方法を確認した
よくある質問
相続した実家は親名義のまま売れますか?
亡くなった親から買主へ直接、売買による所有権移転登記を行うことはできません。相続人への相続登記を行ったうえで、買主への所有権移転を行います。
相続人申告登記をしていれば売れますか?
相続人申告登記は相続登記の申請義務を簡易に履行する制度であり、不動産の権利関係を確定する相続登記ではありません。売却する場合は遺産分割等に基づく相続登記が必要です。
兄弟で相続した実家を売るにはどうすればいいですか?
まず相続人全員で、誰が不動産を取得するのか、売却して代金を分けるのかを決めます。売却して現金を分ける換価分割も選択肢です。共有登記済みの実家全体を売る場合は、原則として共有者全員の合意が必要です。
一人の名義にして売った後、兄弟にお金を分けると贈与になりますか?
国税庁には、換価の便宜上一人名義で登記し、遺産分割の内容どおりに売却代金を分配したケースでは贈与税が問題にならないとする質疑事例があります。ただし、登記・遺産分割協議書・分配方法が適切に整っていることが重要なため、具体的な方法は事前に専門家へ確認してください。
相続した実家の取得費は相続税評価額ですか?
原則として違います。被相続人がその不動産を取得したときの購入代金や購入手数料等を基に計算し、取得時期も被相続人から引き継ぎます。
親が買った金額が分からない場合はどうしますか?
取得費が分からない場合などには売却価額の5%相当額を概算取得費にできる場合があります。ただし譲渡所得が大きくなる可能性があるため、売買契約書・建築資料等を先に探してください。
相続税の取得費加算と3,000万円控除は両方使えますか?
同じ家屋・敷地等の売却について、相続空き家の3,000万円特別控除と相続税額の取得費加算の特例を併用することはできません。どちらが有利かは個別に計算します。
相続空き家の3,000万円控除を使うには売却前に解体が必要ですか?
必ず売却前に解体しなければならないわけではありません。2024年1月1日以後の一定の譲渡では、売却後、翌年2月15日までに一定の耐震改修または取壊しを行う類型もあります。適用要件が多いため、売却方法を決める前に確認してください。
相続した実家は「売る前の遺産分割」でその後が変わる
相続した実家の売却では、不動産会社選びだけでなく、その前の遺産分割が重要です。
誰が実家を取得し、誰が売却し、売却代金をどの割合で取得するのかを曖昧にしたまま売却を進めると、登記、家族間の分配、譲渡所得の申告で問題が生じやすくなります。
遺言と相続人を確認し、売却するなら換価分割を含めた分け方を決め、相続登記を進めます。その間に現在の実家の査定を取り、売却条件を相続人全員で共有すると進めやすくなります。
また、親が購入したときの資料を捨てず、取得費加算や相続空き家3,000万円特別控除の可能性を確認してから売却条件を決めてください。
実家じまい全体の順序から整理したい場合は、実家じまいの進め方、親の死亡後に必要な手続き全体は親が亡くなった後の手続きもあわせて確認してください。