相続した実家について不動産会社へ相談し、「ここは市街化調整区域なので売りにくい」と言われることがあります。
市街化調整区域とは、市街化を抑制することを基本とした区域です。
ただし、市街化調整区域にあるという理由だけで、不動産そのものを売買できなくなるわけではありません。
売却で問題になるのは、買主がその土地・建物を取得した後に、建物を建て替えられるのか、増改築できるのか、別の用途へ変更できるのかという点です。
さらに市街化調整区域では、自治体ごとの条例、開発審査会基準、過去に受けた開発・建築許可の内容などによって扱いが変わります。
そのため、「調整区域だから売れない」「昔から家が建っているから誰でも建替えできる」のどちらも、物件を確認せず一律には判断できません。
市街化調整区域でも実家は売却できる
都市計画法による市街化調整区域の規制は、主に土地の開発や建築、用途変更などに関するものです。
市街化調整区域にある不動産だから、所有権そのものを第三者へ売却できないという制度ではありません。
したがって、現在の土地・建物を購入する人がいれば売却できます。
ただし、買主から見ると「購入後に何ができるか」が重要です。
| 確認項目 | 売却への影響 |
|---|---|
| 現在の住宅をそのまま利用できるか | 居住目的の買主が検討しやすいか |
| 将来建て替えできるか | 土地としての利用価値に影響 |
| 増改築できるか | 古い実家の利用方法に影響 |
| 用途変更できるか | 店舗・賃貸・事業等の利用可能性に影響 |
| 許可が所有者の条件に関係するか | 買主が同じ利用をできるかに影響 |
市街化調整区域とは?
都市計画区域では、計画的な市街化を進める「市街化区域」と、市街化を抑制することを基本とする「市街化調整区域」に分けられている地域があります。
市街化調整区域では、無秩序な市街化を防ぐため、開発・建築について市街化区域より厳しい制限があります。
国土交通省は、市街化調整区域で開発許可を受けるための立地基準を都市計画法34条で限定しています。
- 周辺住民の日常生活に必要な一定の施設
- 農林水産業に関係する一定の施設
- 地区計画等に適合する開発
- 条例で指定された区域・用途
- 開発審査会の議を経て認められる一定の開発
など、許可できる類型が定められています。
今家が建っていても、自由に建て替えられるとは限らない
相続した実家が市街化調整区域にある場合、「すでに家が建っているのだから、新しい所有者も建て替えられる」と考えがちです。
しかし、現在建物が存在することと、将来の建て替えが許可されることは別問題です。
過去にどのような根拠で建築されたか、現在の都市計画法・自治体基準でどのように扱われるかを確認する必要があります。
市街化調整区域では建替え・用途変更にも許可が関係する
市街化調整区域のうち、開発許可を受けた土地以外では、一定の建物の新築・改築・用途変更について都市計画法43条による許可が必要になる場合があります。
名古屋市も、市街化調整区域では開発行為だけでなく、開発行為を伴わない建築や用途変更についても内容により許可が必要と案内しています。
そのため売却前には、現在の実家についてだけでなく、買主が将来どのような手続きを必要とするのかを確認します。
売却前に自治体へ確認したいこと
- 本当に市街化調整区域なのか
- 現在の家はどの許可・根拠で建築されたのか
- 開発許可・建築許可の履歴があるか
- 同じ用途・規模で建て替えられる可能性があるか
- 買主が変わっても同じ条件で利用できるか
- 用途変更する場合に許可が必要か
- 条例・開発審査会基準の対象になるか
- 農地が含まれる場合、別の許可が必要か
相談先は、物件所在地の自治体にある都市計画・開発許可・建築指導等の担当窓口です。
不動産会社だけで最終判断せず、行政上の扱いを確認したうえで査定へ反映してもらうと売却条件を整理しやすくなります。
「既存宅地なら建て替えられる」とは限らない
市街化調整区域について調べると、「既存宅地」という言葉が出てくることがあります。
過去には、市街化調整区域でも一定の既存宅地について建築を認める確認制度がありました。
しかし、現在は「既存宅地なら全国どこでも自由に建築できる」という制度ではありません。
たとえば横浜市では、旧既存宅地の確認制度は2001年度に廃止されたと案内したうえで、一定の「既存宅地」について現在の開発審査会基準に基づき個別に取り扱っています。
自治体ごとに基準が異なるため、古い不動産資料に「既存宅地」と書かれていても、それだけで現在の建替え可否を判断しないでください。
「線引き前宅地」も自治体の現行基準を確認する
市街化区域と市街化調整区域を分ける区域区分が行われる前から宅地だった土地を、一般に「線引き前宅地」と呼ぶことがあります。
線引き前から宅地として利用されていたことが、自治体の許可基準上有利に扱われるケースはあります。
しかし、「線引き前宅地なら誰でも自由に住宅を建てられる」という全国共通のルールではありません。
たとえば横浜市では、「線引き前宅地」などを開発審査会へ付議するための個別基準を設けています。
物件所在地の自治体で、現在どの基準を適用できるのか確認してください。
自治体によって許可基準が違う
市街化調整区域の売却で特に注意したいのが地域差です。
都市計画法34条11号・12号などでは、地方公共団体が条例で一定の区域・用途を定める仕組みがあります。
愛知県も、都市計画法34条11号・12号等に基づき、市街化調整区域で許可できる開発行為・建築等について条例を定めています。
一方、その県の条例が指定都市や事務処理市には適用されないなど、同じ県内でも窓口・基準が異なることがあります。
他県や隣の市の事例をそのまま自分の実家へ当てはめないことが重要です。
過去の許可が「誰でも使える許可」とは限らない
市街化調整区域では、建物用途や土地条件だけでなく、申請した人の事情を根拠に認められている住宅等があります。
自治体によっては、分家住宅など「申請者の事情」に基づく許可基準を設けています。
その場合、現在の所有者が利用できているからといって、第三者へ売却した後も買主が同じ条件で利用・建替えできるとは限りません。
売却前に過去の許可書類を確認し、所有者変更・用途変更・建替えの際にどの手続きが必要になるか自治体へ相談してください。
開発許可の「地位の承継」が関係するケースもある
開発許可を受けている土地については、売買等に伴い許可上の地位の承継手続きが関係する場合もあります。
たとえば横浜市では、開発許可に基づく地位について一般承継の届出や特定承継の承認申請といった手続きを設けています。
ただし、過去の許可が何でも自動的に買主へ移るという意味ではありません。
自分の実家がどの許可を受け、売却時に承継・新規許可・用途変更等のどれが必要なのかを行政へ確認します。
農地が含まれている場合は別の確認が必要
市街化調整区域の実家では、宅地の隣に畑・田などの農地が含まれているケースがあります。
この場合は都市計画法だけでなく、農地法の手続きも確認する必要があります。
農林水産省は、農地を農地として売買・貸借する場合、原則として農業委員会の許可等が必要と案内しています。
農地を宅地・駐車場など農業以外の用途へ変える場合には、農地転用の制度も関係します。
「地目が畑だが実際は庭として使っている」といった場合でも自己判断せず、農業委員会・自治体へ確認してください。
市街化調整区域だから住宅ローンが絶対に使えないわけではない
市街化調整区域の住宅は、「住宅ローンが使えない」と説明されることがあります。
しかし、市街化調整区域という区域区分だけを理由に、すべての金融機関・すべての物件で融資が禁止される全国共通ルールがあるわけではありません。
実際には、再建築可否、担保価値、建物の適法性、利用条件などを含めて金融機関が判断します。
売主側では「ローン不可」と断定するのではなく、買主が金融機関へ確認できるよう、建築・許可条件を整理しておくことが重要です。
売却方法1.一般の仲介で売る
現在の住宅を第三者が引き続き利用でき、将来の建替え条件も比較的整理されている場合は、一般の仲介で買主を探せます。
ただし、不動産会社によって市街化調整区域の調査経験には差があります。
査定時には次を確認してください。
- 都市計画法上の許可関係を確認しているか
- 過去の開発・建築許可を調査したか
- 建替え可否をどの根拠で判断したか
- どの買主層を想定しているか
- 市街化調整区域の取引実績があるか
売却方法2.隣地所有者へ売る
市街化調整区域では、隣地所有者が有力な買主となるケースもあります。
隣地と一体利用することで、土地の利用価値が高まる場合があるためです。
特に、土地形状、接道、農地との一体利用などに特徴がある場合は、一般の住宅購入者とは異なる価値を隣地所有者が感じる可能性があります。
ただし、隣地だから必ず高く売れるわけではありません。
一般仲介・買取査定も取ったうえで価格の目安を確認してから交渉すると判断しやすくなります。
売却方法3.市街化調整区域を扱う買取会社へ売る
一般の住宅購入者では利用条件が合いにくい場合、不動産会社等による直接買取を比較できます。
市街化調整区域や再建築・農地・接道等の問題を扱う事業者は、自社で利用方法や再販売先を検討できるため、一般仲介とは異なる査定になることがあります。
ただし「市街化調整区域専門」と表示していれば必ず高く買うわけではありません。
複数社について、
- 買取価格
- 査定の根拠
- 残置物の扱い
- 測量等の負担
- 農地を含む場合の条件
- 契約後に価格変更となる条件
- 決済時期
まで比較してください。
売却前に解体する必要はない
市街化調整区域の古い実家だからといって、査定前に建物を取り壊す必要はありません。
建物を壊した後、新しい住宅を建築できる条件が整っていなければ、現在の住宅を利用したい買主まで失う可能性があります。
解体を検討する場合は、
- 建替え可能性を自治体へ確認する
- 現在の建物を残した査定を取る
- 更地にした場合の利用条件を確認する
- 更地査定を取る
- 解体見積もりを取る
という順序で比較します。
市街化調整区域の実家を査定するときの質問
- 現在の建物はどの根拠で建築されていますか?
- 開発許可・建築許可の履歴を確認しましたか?
- 買主が建て替える場合はどの許可が必要ですか?
- 同じ用途なら建替えできる可能性がありますか?
- 用途変更には許可が必要ですか?
- 許可に所有者・申請者の条件はありますか?
- 線引き前宅地・既存宅地に関する現行基準はありますか?
- 農地が含まれる場合はどの手続きが必要ですか?
- 一般仲介ならどの買主を想定しますか?
- 直接買取ならいくらですか?
市街化調整区域の実家を売る流れ
- 登記事項証明書・公図等を集める
- 市街化調整区域であることを確認する
- 過去の建築・開発許可資料を探す
- 自治体の開発許可担当窓口へ相談する
- 建替え・用途変更・所有者変更時の条件を確認する
- 農地があれば農地法の手続きも確認する
- 現在の状態で複数の不動産会社へ査定する
- 一般仲介・隣地・直接買取を比較する
- 必要な手続き・費用を見積もる
- 売却方法を決める
- 売買契約・決済・引渡しを行う
避けたい判断
- 市街化調整区域だから売れないと決めつける
- 今家が建っているから誰でも建替えできると思う
- 既存宅地なら全国どこでも自由に建築できると思う
- 線引き前宅地なら必ず建替えできると思う
- 過去の許可がそのまま買主へ引き継がれると思う
- 他の自治体の許可基準をそのまま当てはめる
- 農地を普通の宅地と同じように売れると思う
- 住宅ローンは絶対に使えないと断定する
- 建替え可否を確認する前に建物を壊す
- 1社に断られただけで売却不能と判断する
よくある質問
市街化調整区域の実家は売却できますか?
売却自体は可能です。ただし、買主が購入後に建替え・用途変更等をできるかによって買主層や査定条件が変わるため、許可条件を確認してから売却方法を選びます。
市街化調整区域なら家を建て替えられませんか?
一律にはいえません。都市計画法34条・43条、自治体の条例や開発審査会基準、現在の建物の許可経緯などによって建替え可能性が変わります。所在地の自治体へ確認してください。
既存宅地なら自由に建て替えできますか?
全国一律に自由に建て替えられる制度ではありません。旧既存宅地制度の廃止後、自治体ごとに条例・開発審査会基準等で一定の土地を扱っている場合があります。現行基準を確認してください。
線引き前宅地なら売りやすいですか?
自治体の基準上、建築許可を検討しやすくなる場合はありますが、線引き前宅地というだけで誰でも自由に建築できるわけではありません。売却前に自治体の現行基準を確認します。
今住めている家なら買主もそのまま住めますか?
現在の利用状況だけでは判断できません。過去の許可が用途・所有者等の条件に基づいている場合があるため、売却・所有者変更後の利用や将来の建替えについて確認してください。
市街化調整区域の土地に農地が含まれていても売れますか?
売却できる場合はありますが、農地の売買・転用には農地法上の手続きが関係します。農地を農地として売買する場合も原則として農業委員会の許可等が必要です。
市街化調整区域では住宅ローンを使えませんか?
区域だけを理由にすべての住宅ローンが法律上禁止されるわけではありません。建替え可否、担保評価、建物の状態・適法性などを含めて金融機関が個別に判断します。
売れないなら建物を解体した方がいいですか?
先に解体しない方がよい場合があります。建替えできない土地で現在の建物までなくなると利用方法がさらに限られる可能性があります。建替え可否と現況査定を確認してから判断してください。
普通の不動産会社でも売れますか?
一般仲介で売却できる物件もあります。ただし市街化調整区域では許可調査が重要なので、物件所在地の調整区域を扱った実績や、行政確認をどこまで行うかを比較してください。
市街化調整区域では査定より先に「買主が何をできるか」を確認する
市街化調整区域の実家でも売却はできます。
ただし、一般的な住宅と同じように価格だけを査定しても、正確な売却可能性は分かりません。
まず自治体で、現在の建物の許可経緯、建替え、用途変更、買主が変わった場合の条件を確認してください。
そのうえで、同じ情報を複数の不動産会社へ伝え、一般仲介、隣地への売却、直接買取を比較します。
自治体の基準確認前に「調整区域だから安く売る」「古いから解体する」と決めず、利用条件を整理した後の査定額と最終手取りで判断することが重要です。
実家を売る・残す・管理するところから整理したい場合は、実家じまいの進め方もあわせて確認してください。