相続した実家を売却するには?登記・遺産分割・税金までの流れ

親が亡くなり、実家を相続した後に「誰も住まないので売却したい」と考えることがあります。

ただし、相続した実家は、通常の自宅売却と同じようにいきなり不動産会社へ売却を依頼すればよいとは限りません。

誰が相続人なのか。

遺言書はあるのか。

誰が実家を取得するのか。

兄弟姉妹で売却代金を分けるのか。

まず相続関係を整理し、その内容に合わせて相続登記を行ってから、査定・売却へ進むのが基本です。

さらに、相続した実家の売却では、取得費、譲渡所得、相続税額の取得費加算、相続空き家の3,000万円特別控除など、税金にも相続特有のルールがあります。

相続関係を整理する前に売却方法だけを決めず、遺産分割・登記・税金まで含めて順番を組み立てることが重要です。

目次

相続した実家を売却する流れ

相続後の実家売却は、次のような順番で考えます。

  1. 遺言書と相続人を確認する
  2. 相続放棄を検討する可能性がないか確認する
  3. 実家を誰が取得するか遺産分割を決める
  4. 相続登記を行う
  5. 取得費に関する資料や重要書類を探す
  6. 実家を査定する
  7. 仲介・買取など売却方法を決める
  8. 売買契約・引渡しを行う
  9. 各相続人の譲渡所得と確定申告を確認する

特に相続人が複数いる場合は、「とりあえず売って後でお金を分ける」と進めない方が安全です。

誰が不動産を取得し、誰が売主となり、売却代金をどのように取得するのかを先に整理します。

最初に遺言書と相続人を確認する

親が亡くなったら、実家の売却より先に相続関係を確認します。

まず、

  • 遺言書の有無
  • 法定相続人
  • 実家以外の相続財産
  • 借金などの債務

を確認します。

遺言書があれば、その内容によって誰が実家を取得するのかが指定されている場合があります。

遺言書がなく、相続人が複数いる場合には、遺産分割協議で実家を誰が取得するか決めることになります。

相続放棄の可能性があるなら、家を売る前に確認する

親に借金があるなど、相続放棄を検討している場合は、実家の売却や価値のある家財の処分を先に進めない方がよい場合があります。

相続放棄には原則として熟慮期間があり、相続財産を処分した行為がその後の判断に影響する可能性もあります。

相続放棄の可能性がある場合は、家庭裁判所や弁護士等へ確認してから売却を進めてください。

相続人が複数いる場合は、実家をどう分けるか決める

実家のように物理的に分けにくい不動産では、遺産分割の方法を考える必要があります。

代表的な考え方として、次のような方法があります。

1.一人が実家を取得する

相続人の一人が実家を取得し、その人の名義に相続登記をする方法です。

その後、その人が実家を売却することもできます。

2.代償分割

一人が実家を取得する代わりに、その人が他の相続人へ金銭などを渡す方法です。

実家自体は一人へまとめたいが、相続人間の取得額を調整したい場合に使われることがあります。

3.換価分割

実家を売却して現金化し、その売却代金を相続人で分ける方法です。

「誰も実家を使わないので、売って現金で分けたい」というケースでは候補になります。

ただし、売却時点の所有割合や、売却代金をどの割合で取得するかによって、譲渡所得の申告関係も変わり得ます。

遺産分割協議書、相続登記、売買契約、売却代金の分配が矛盾しないようにしておくことが重要です。

4.共有で相続する

兄弟姉妹など複数人で共有名義にする方法もあります。

ただし、その後実家全体を売却する場合は共有者間で売却条件をそろえる必要があります。

将来売却することがほぼ決まっている場合は、何となく共有登記をしてから考えるのではなく、売却まで含めた遺産分割方法を司法書士・税理士等へ確認しておく方法があります。

「代表者一人の名義で売って後から兄弟へ配る」は先に確認する

実務上、「手続きを簡単にするため長男一人の名義にして、売れたお金を後で兄弟へ分ければよいのでは」と考えることがあります。

しかし、登記上誰が取得したのか、換価分割のための名義なのか、誰が譲渡所得を申告するのかによって税務上の扱いが変わる場合があります。

そのため、売却後にお金を移して帳尻を合わせるのではなく、

  • 遺産分割協議書
  • 相続登記
  • 売却代金の取得割合
  • 譲渡所得の申告者

を売却前にそろえておく方が安全です。

相続した実家を売る前に相続登記を確認する

2024年4月1日から相続登記は義務化されています。

相続によって不動産の所有権を取得したことを知った日から、原則3年以内に相続登記を申請する必要があります。

さらに、当初は遺産分割がまとまっておらず、その後の遺産分割で不動産を取得することになった場合には、遺産分割成立日から3年以内に、その内容に応じた登記を行う追加的な義務があります。

正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料対象となる可能性があります。

売却予定があるからといって、登記を確認しないまま買主探しだけを先行させないようにします。

家財整理では「親が買ったときの資料」を捨てない

相続した実家の売却で税金へ大きく影響するのが「取得費」です。

家財を片付ける際には、

  • 親が実家を購入したときの売買契約書
  • 建築時の工事請負契約書
  • 購入時の領収書
  • 仲介手数料の資料
  • 増改築関係の資料

などを捨てないようにします。

親が何十年も前に取得した実家では、こうした資料が家の中に残っている場合があります。

相続した実家の取得費は「相続時の評価額」ではない

相続税を申告したときの不動産評価額を、そのまま売却時の取得費に使うと思われることがあります。

しかし、相続によって取得した土地・建物を売る場合、取得費は原則として、亡くなった親など被相続人がその土地・建物を取得したときの金額を引き継ぎます。

取得した時期も原則として引き継ぎます。

そのため、

相続時評価額 = 売却時の取得費

ではありません。

取得費が分からない場合は売却額の5%を使える

購入が古く、親の売買契約書などが見つからないこともあります。

取得費が分からない場合には、売却した金額の5%相当額を取得費とすることができます。

例えば3,000万円で売却した場合、5%なら150万円です。

ただし、本来の取得費がそれより大きかった場合、概算取得費を使うと課税対象となる譲渡所得が大きくなることがあります。

そのため、契約書が一枚見つからないだけで最初から5%と決めず、購入・建築時の資料が残っていないか確認します。

実家を売ったときの譲渡所得の基本

土地・建物を売却した場合の課税譲渡所得は、おおむね次の考え方で計算します。

収入金額 − 取得費 − 譲渡費用 − 適用できる特別控除

売却価格そのものへ税金がかかるわけではありません。

取得費や売却のために直接かかった費用、利用できる特例によって課税対象額が変わります。

相続した実家の場合、親の取得時期も引き継ぐため、所有期間の判定についても相続日から数えるわけではありません。

相続税を払った人は「取得費加算の特例」を使える場合がある

相続や遺贈で財産を取得し、その人に相続税が課税されている場合には、一定の期間内にその相続財産を売却すると、相続税額の一定部分を取得費へ加算できる場合があります。

対象となるのは、原則として、相続開始の日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに行った譲渡です。

取得費が増えれば、その分、譲渡所得が小さくなる可能性があります。

ただし、すべての相続実家で使えるわけではありません。

相続した空き家には最高3,000万円の特別控除が使える場合がある

一定の要件を満たす相続空き家を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。

ただし、「親の家を相続して売れば3,000万円控除」という単純な制度ではありません。

代表的な要件には、

  • 被相続人が居住していた家であること
  • 原則として1981年5月31日以前に建築された家屋であること
  • 区分所有建物ではないこと
  • 相続開始直前に原則として被相続人以外が住んでいなかったこと
  • 相続後から売却まで事業・賃貸・居住に使われていないこと
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
  • 売却代金が1億円以下であること

などがあります。

現行制度では、2027年12月31日までに行われる一定の譲渡が対象です。

相続人が3人以上なら控除上限が変わる

2024年1月1日以後の譲渡では、その家屋・敷地を相続または遺贈によって取得した相続人が3人以上の場合、1人当たりの控除上限は最高2,000万円です。

「相続人が何人いても1人3,000万円」とは限りません。

老人ホームへ入っていた親の実家も対象になる場合がある

親が亡くなる直前に老人ホーム等へ入所していて、実家に住んでいなかった場合でも、一定の要件を満たせば相続空き家特例の対象となる場合があります。

要介護認定等や入所施設、入所後の家の利用状況など複数の条件があります。

「亡くなる直前に実家へ住んでいなかったから対象外」と自己判断せず確認します。

3,000万円特別控除と相続税額の取得費加算は同じ譲渡では併用できない

相続実家の売却で特に注意したい点です。

相続空き家の3,000万円特別控除を適用する場合、同じ実家の譲渡について相続税額の取得費加算の特例を同時に適用することはできません。

そのため、両方の要件に該当しそうな場合は、

  • 3,000万円特別控除を使う場合
  • 取得費加算を使う場合

で税額がどう変わるかを確認します。

金額が大きい場合は、売却契約前に税理士等へ確認しておくと判断しやすくなります。

換価分割では売却代金だけでなく譲渡所得の申告も確認する

兄弟姉妹で「実家を売って現金を分ける」と決めた場合でも、税務上は売却代金の入金先だけで決まるわけではありません。

国税庁は、未分割の相続財産を換価した場合、換価時点の所有割合や、あらかじめ決めた換価代金の取得割合などに応じて譲渡所得を申告する考え方を示しています。

そのため、

  • 誰の名義にするか
  • 誰が売主になるか
  • 売却代金を何割ずつ取得するか
  • 誰が譲渡所得を申告するか

を別々に考えない方がよいでしょう。

相続人が複数いるなら、査定前に「売る方針」だけでも合わせておく

実際の売却価格が分からない段階で、細かな分配額まで決める必要はありません。

ただし、

  • 売却すること自体に全員が同意しているか
  • 仲介・買取のどちらも比較するか
  • 最低限どの程度の条件なら売るか
  • 家財を誰が確認するか
  • 査定や不動産会社との連絡担当を誰にするか

くらいは共有しておくと進めやすくなります。

相続人間で売却方針が一致していないまま、一人だけが不動産会社との話を進めても途中で止まりやすくなります。

査定は家財が残っていても相談できる

相続後の実家には、親の家具・衣類・食器などが大量に残っていることがあります。

査定前にすべて処分する必要があるとは限りません。

まず、

  • 重要書類
  • 現金
  • 通帳
  • 印鑑
  • 親の購入時資料
  • 貴金属
  • 家族が残したい物

を確保します。

その状態で査定を取り、仲介ならどこまで家財を撤去する必要があるか、買取なら残置物を残した状態でも対応可能か確認してから片付け範囲を決める方法があります。

相続した実家でも仲介と買取を比較する

相続した家だから売却方法が特別になるわけではありません。

一般の買主を探す仲介と、不動産会社が直接買い取る買取を比較できます。

仲介は市場で購入希望者を探すため売却期間が必要になる一方、買取は条件が合えば比較的短期間で契約へ進めることがあります。

古い建物、残置物、遠方の実家などでは買取が候補になることもあります。

ただし、どちらが必ず得というものではありません。

両方の査定条件を確認してから判断します。

確定申告が必要になるか確認する

実家の売却後は、譲渡所得を確認します。

特に、

  • 売却益が出た
  • 相続空き家3,000万円特別控除を利用する
  • 相続税額の取得費加算を利用する

といった場合は、確定申告関係の確認が必要です。

3,000万円特別控除も、要件を満たせば自動的に適用されるわけではなく、必要書類を添えて確定申告します。

相続した実家を売却する前のチェックリスト

  • 遺言書を確認した
  • 相続人を確認した
  • 相続放棄の可能性を確認した
  • 誰が実家を取得するか決めた
  • 換価分割・代償分割・共有などの方法を確認した
  • 相続登記を確認した
  • 親の購入時資料を探した
  • 重要書類・貴重品を確保した
  • 複数社へ査定する準備をした
  • 取得費を確認した
  • 3,000万円特別控除の要件を確認した
  • 相続税額の取得費加算の対象か確認した
  • 使う税特例を売却前に比較した

よくある質問

相続した実家はそのまま売却できますか?

まず相続人・遺言・遺産分割を確認し、売却する人が分かる状態にします。相続登記も必要です。相続人が複数いる場合は、誰が取得し売却するのか、換価分割にするのかなどを先に整理します。

相続登記をしてから売却する必要がありますか?

売却には現在の所有関係を登記上整理する必要があります。相続登記自体も義務化されているため、売却前に司法書士等へ必要手続きを確認してください。

兄弟で相続した実家を売却できますか?

可能ですが、共有で売るのか、一人が取得した後に売るのか、換価分割とするのかで手続きや税務が変わります。売却代金をどう分けるかまで含めて遺産分割段階で整理します。

換価分割とは何ですか?

相続財産を売却して現金化し、その売却代金を相続人で分割する方法です。売却時の所有割合や代金取得割合によって譲渡所得の申告関係も変わり得るため、遺産分割協議書と売却手続きを合わせて考えます。

相続した実家の取得費は相続税評価額ですか?

原則として違います。相続した土地・建物の取得費は、亡くなった親など被相続人が取得したときの取得費を引き継ぎます。

親がいくらで実家を買ったか分かりません

取得費が分からない場合は、売却価額の5%相当額を概算取得費とすることができます。ただし税額へ大きく影響する可能性があるため、売買契約書、建築資料、領収書等が残っていないか先に確認します。

相続税の取得費加算とは何ですか?

相続税が課税された人が一定期間内に相続財産を売却した場合、相続税額の一定部分を譲渡所得計算上の取得費へ加算できる制度です。

相続した実家なら3,000万円控除を使えますか?

相続した実家すべてが対象になるわけではありません。建築時期、区分所有の有無、親の居住状況、相続後の利用状況、売却期限、売却代金など複数の要件があります。

老人ホームへ入っていた親の家でも3,000万円控除を使えますか?

一定の要件を満たせば対象となる場合があります。要介護認定等、施設の種類、施設入所後の実家の利用状況などを確認します。

3,000万円控除と相続税の取得費加算は両方使えますか?

同じ実家の譲渡について、相続空き家の3,000万円特別控除と相続税額の取得費加算の特例を併用することはできません。両方の要件に該当しそうな場合は、どちらを使う方が有利か個別に計算します。

相続した実家は「売却」より先に、相続の形を決める

相続した実家を売るとき、価格や不動産会社だけを先に考えると、後から相続人間の調整や税金で止まることがあります。

遺言を確認する。

相続人を確認する。

相続放棄の可能性を確認する。

誰が実家を取得するか、売却代金をどう分けるかを決める。

相続登記をする。

親の取得費資料を探す。

その状態で査定を取り、売却を進めます。

相続人が複数いる場合や、換価分割、3,000万円特別控除、取得費加算などが関係する場合は、売買契約前に司法書士・税理士等へ確認しておく方が、売却後の修正を避けやすくなります。

実家・家財全体の整理については実家・家財整理のガイドも参照してください。

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