親から相続した実家を売るとき、一定の条件を満たすと、売却による譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度があります。
正式には「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。
ただし、「親が住んでいた古い家を相続した」というだけで自動的に使える制度ではありません。
建築時期、相続直前の居住者、相続後の利用方法、売却期限、売却価格、耐震性や取壊しなど、複数の条件があります。
また、2024年1月1日以後の売却では制度が拡充され、一定の場合は家を売却した後、翌年2月15日までに耐震改修または取壊しを行う方法でも対象になり得ます。
実家を壊す、売る、買取へ出すという判断を先にしてしまう前に、特例を使える可能性があるか確認しておくことが重要です。
相続空き家の3,000万円控除とは?
被相続人が住んでいた一定の家屋またはその敷地等を相続・遺贈で取得した相続人が、定められた期限内に一定の条件で売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。
2026年時点では、制度の適用対象となる譲渡期間は2027年12月31日までです。
ただし、2024年1月1日以後の譲渡で、対象となる家屋・敷地等を相続または遺贈で取得した相続人の数が3人以上の場合は、控除額が1人あたり最高2,000万円となります。
3,000万円を売却代金から引ける制度ではない
控除する対象は売却代金ではなく「譲渡所得」です。
譲渡所得は基本的に、次のように計算します。
譲渡所得 = 売却代金 − 取得費 − 譲渡費用 − 特別控除
たとえば、取得費・譲渡費用を差し引いた後の利益が2,000万円で、3,000万円特別控除を満額利用できる場合、課税譲渡所得が0円になる可能性があります。
反対に、売却価格が3,000万円以下なら自動的に税金が0円になる制度ではありません。
まず確認したい7つの基本条件
- 相続または遺贈で対象の家屋・敷地等を取得したか
- 家屋が原則1981年5月31日以前に建築されたか
- 区分所有建物登記がされた建物ではないか
- 相続直前に原則として被相続人以外が住んでいなかったか
- 相続後、売却まで事業・賃貸・居住に使っていないか
- 期限内に売却するか
- 売却代金が1億円以下か
さらに、家屋を残して売るのか、先に取り壊して土地を売るのか、売却後に耐震改修・取壊しをするのかによって追加条件が変わります。
条件1.1981年5月31日以前に建築された家屋
対象となる被相続人居住用家屋は、原則として1981年5月31日以前に建築された家屋です。
「築40年以上なら対象」といった大まかな年数ではなく、登記事項証明書等で建築年月日を確認します。
1981年6月1日以後に建築された住宅は、この相続空き家の特別控除の対象家屋には原則該当しません。
条件2.マンションなどの区分所有建物は対象外
対象家屋は、区分所有建物登記がされていない建物である必要があります。
典型的には戸建ての実家を想定した制度です。
分譲マンションの一室など、区分所有建物登記がされている住宅は対象外です。
条件3.相続直前に被相続人以外が住んでいない
原則として、相続開始の直前に、その家へ被相続人以外の人が住んでいなかったことが必要です。
たとえば、親と同居していた子どもがそのまま住んでいた場合などは、制度の対象になるか慎重に確認する必要があります。
住民票だけでは実態が確認できないケースについては、市区町村が代替書類・補完資料やヒアリングなどにより確認できる場合もあります。
親が老人ホームに入っていた場合も対象になることがある
親が亡くなる直前まで老人ホーム等へ入所しており、実家では生活していなかった場合でも、一定の条件を満たせば対象になる可能性があります。
主に確認するのは次のような点です。
- 親が要介護認定・要支援認定等を受けていたか
- 制度上対象となる老人ホーム等へ入所していたか
- 施設入所前はその実家を主な住まいとしていたか
- 入所後も家財の保管や一時帰宅等に使われていたか
- 入所後に他人へ貸していないか
- 事業に使っていないか
- 親以外の人を住まわせていないか
単に「親が実家を出ていた」というだけでは足りません。
また、老人ホーム等ではなく、介護のため子どもの家へ転居してそこで亡くなったケースや、一般の賃貸住宅へ転居したケースは同じ扱いではありません。
相続後に誰かが住むと対象外になる可能性がある
相続後の使い方も重要です。
この特例では、原則として相続から譲渡までの間、対象の家屋・敷地等を次の用途に使っていないことが必要です。
- 事業
- 賃貸
- 居住
「売るまで空けておくのはもったいないから、一時的に賃貸する」といった行動が、特例の適用に影響する可能性があります。
この特例を利用する可能性があるなら、実家の利用方法を変える前に確認してください。
売却期限は「相続から3年後」その日までではない
制度上の期限は、相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までです。
たとえば、2024年6月10日に相続が開始した場合、3年後は2027年6月10日なので、その年の12月31日が一つの期限になります。
ただし、2026年時点で制度自体の適用期間は2027年12月31日までです。
そのため、相続時期によっては「相続から3年後の年末」より先に制度自体の期限が来ることがあります。
「2027年末まで制度があるから、最近相続した家ならまだ3年以上ある」とは考えないようにしてください。
売却価格は1億円以下であることが必要
この特例では、売却代金が1億円以下であることも条件です。
ここで注意したいのは、同じ家屋・敷地等を分けて売却した場合です。
自分が売った分だけでなく、他の相続人が一定期間内に売った部分なども含めて1億円以下かを判定するケースがあります。
「兄弟それぞれの売却額が1億円以下だから大丈夫」と単純には判断できません。
特例適用後、残りの部分などの売却によって合計額が1億円を超えた場合には、後の売却から4か月以内に修正申告・納税が必要になる場合があります。
売り方は大きく3パターンある
| 売り方 | 主な条件 |
|---|---|
| 家屋を残したまま売る | 売却時点で家屋が一定の耐震基準を満たす |
| 家屋を先に取り壊して土地を売る | 相続から取壊し・譲渡まで事業・賃貸・居住に使わず、取壊し後も新たな建物等の敷地に使わない |
| 家屋付きで売却後に耐震改修または取壊し | 2024年以後の譲渡で、原則として翌年2月15日までに条件を満たす |
築古だからといって、最初から解体しなければ特例を使えないわけではありません。
家屋を残して売るなら耐震基準を確認する
家屋と土地を一緒に売却し、売却時点で特例を使う場合は、家屋が一定の耐震基準を満たしている必要があります。
必要に応じて耐震基準適合証明書や建設住宅性能評価書などで確認します。
築年数が古いという理由だけで耐震基準を満たしていないと決めることも、見た目に問題がないから満たしていると判断することもできません。
先に取り壊して土地を売ることもできる
家屋を取り壊した後、敷地を売却する方法も特例の対象になり得ます。
ただし、相続から取壊しまで家屋を事業・賃貸・居住に使っていないこと、土地も相続から売却まで事業・賃貸・居住に使っていないことなどの条件があります。
さらに、取壊し後から譲渡までの間に、その土地を新たな建物・構築物の敷地として利用していないことも必要です。
税制だけを理由に先に解体すると、不動産売却の選択肢や固定資産税、解体費など別の問題が出ることがあります。
解体前に、古家付きの現況査定、更地にした場合の査定、直接買取の条件を比較してください。
2024年からは売却後の取壊しでも対象になり得る
2024年1月1日以後の譲渡では制度が拡充されました。
家屋付きの状態で売却した場合でも、売却の日からその翌年2月15日までに、家屋が耐震基準を満たすこととなった場合、または家屋を全部取り壊した場合には、一定の条件で特例対象になり得ます。
これは、「必ず売主が売却前に解体しなければならない」という従来の制約を緩和するものです。
買主が売却後に解体する場合は契約条件が重要
売却後の取壊しを前提に特例を利用する場合、実際の解体は買主側が行う取引も考えられます。
この場合、買主が期限までに解体しなければ、売主が予定していた特例を使えなくなる可能性があります。
国土交通省も、買主の協力を得られないことで特例が適用できなくなるトラブルを防ぐため、売買契約の特約等で確認するための文言例を公開しています。
売却後の耐震改修・取壊しを利用する場合は、不動産会社へ次を確認してください。
- 誰が耐震改修・取壊しを行うのか
- いつまでに完了させるのか
- 完了を証明する書類を誰が取得するのか
- 売主へどのように書類を渡すのか
- 契約書・特約にどう記載するのか
相続人が3人以上なら控除上限は2,000万円
2024年1月1日以後の譲渡では、被相続人居住用家屋とその敷地等を相続・遺贈により取得した相続人の数が3人以上の場合、特別控除額は1人につき最高2,000万円です。
兄弟が3人いるというだけで常に2,000万円になるとは限らないため、実際に対象家屋・敷地等を取得した相続人の数を確認します。
親族など特別な関係の相手への売却は対象外
この特例は、親子、夫婦、生計を一にする親族など、一定の特別な関係にある人への売却では利用できません。
家族内で名義を整理するための売買と、第三者への通常の不動産売却を同じものとして扱わないようにしてください。
取得費加算とは同じ物件で併用できない
相続税を支払った人が相続財産を一定期間内に売却した場合、相続税の一部を取得費へ加算できる「取得費加算の特例」があります。
しかし、同じ対象不動産について、この相続空き家3,000万円特別控除と取得費加算を併用することはできません。
両方の対象になりそうな場合は、どちらを使う方が税負担を抑えられるか確認してください。
「被相続人居住用家屋等確認書」が必要
特例を利用する確定申告では、「被相続人居住用家屋等確認書」が重要な必要書類になります。
確認書は、売却した実家が所在する市区町村へ申請して交付を受けます。
主に、被相続人が住んでいたこと、他の居住者がいなかったこと、相続後に事業・賃貸・居住へ使われていなかったことなど、制度上必要となる一定の事実を市区町村が確認します。
確認書が出ても特例適用が確定するわけではない
「被相続人居住用家屋等確認書」が交付されたからといって、税務上の特例適用が確約されるわけではありません。
確認書は、特例に必要な一定事項を市区町村が確認した書類です。
最終的な特例の適用可否は、確定申告時に税務署が確認します。
確認書は売り方によって様式が違う
2024年1月1日以後の譲渡では、主に次の3種類に分かれます。
| ケース | 主な様式 |
|---|---|
| 耐震基準を満たす家屋・敷地を売却 | 様式1-1 |
| 家屋を先に取り壊し、土地を売却 | 様式1-2 |
| 売却後に耐震改修・取壊し | 様式1-3 |
自治体によって申請窓口・提出方法・交付までの日数が異なります。
確定申告直前に初めて申請するのではなく、売却・取壊し等が完了したら早めに所在地の自治体へ確認するとよいでしょう。
確認書の申請で必要になりやすい資料
売り方や老人ホーム入所の有無によって違いますが、自治体への確認書申請では次のような資料を求められることがあります。
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人の住民票・戸籍の附票等
- 家屋・敷地の登記事項を確認できる資料
- 売買契約書の写し
- 電気・水道・ガスの閉栓等を確認できる資料
- 空き家であったことを確認できる資料
- 取壊しを確認できる書類・写真
- 老人ホーム等へ入所していた場合の介護保険被保険者証等
- 老人ホーム等への入所契約書等
自治体や売却方法によって必要書類は異なるため、物件所在地の市区町村が公開している最新版を確認してください。
確定申告では何が必要?
特例を使うには確定申告が必要です。
売却方法によって必要書類は変わりますが、代表的なものは次のとおりです。
- 確定申告書
- 譲渡所得の内訳書(土地・建物用)
- 相続により取得したこと、建築時期等を確認できる登記事項証明書等
- 被相続人居住用家屋等確認書
- 売却代金が1億円以下であることを確認できる売買契約書等
- 家屋を残して売る場合の耐震基準適合証明書等
- 売却後に耐震改修・取壊しをした場合の該当証明書類
一定の場合、不動産番号等を明細書へ記載することで登記事項証明書の添付を省略できる制度もあります。
控除で税額が0円でも確定申告する
3,000万円控除を適用した結果、課税譲渡所得が0円になったとしても、特例を利用するためには必要書類を添えて確定申告します。
「税金が発生しなかったから申告不要」と考えないようにしてください。
売る前に特例対象か確認する方が安全
相続空き家の特別控除は、売却後に初めて調べると取り返せない条件があります。
- 相続後に誰かを住まわせた
- 賃貸した
- 解体する時期を誤った
- 売却期限を過ぎた
- 売却後の解体を買主が期限までに行わなかった
- 必要な証拠書類を残していなかった
このような問題を避けるため、売却方針を決める前に制度対象になりそうかを確認してください。
解体する前に不動産査定も取る
税特例を使うために「先に家を壊そう」と判断する必要はありません。
2024年以降は一定条件で売却後の取壊しも対象となったため、売却方法の選択肢は広がっています。
まず現在の状態で不動産会社へ査定を依頼し、次の条件を比較します。
- 家屋を残して中古戸建として売る
- 古家付き土地として売り、売却後に取壊す
- 売却前に解体して更地で売る
- 不動産会社等へ直接買い取ってもらう
税金だけではなく、解体費、売却価格、固定資産税、売却までの期間を含めて最終的な手取りで比較してください。
相続空き家3,000万円控除チェックリスト
- 相続・遺贈で家屋と敷地等を取得した
- 家屋は1981年5月31日以前の建築
- 区分所有建物ではない
- 相続直前に原則として被相続人以外の居住者がいなかった
- 老人ホーム入所なら要介護等・施設・実家利用状況を確認した
- 相続後に賃貸・事業・居住へ使っていない
- 相続開始から3年を経過する日の属する年末までに売る
- 制度自体の期限2027年12月31日も確認した
- 売却代金1億円以下の要件を確認した
- 相続人3人以上の場合の2,000万円上限を確認した
- 耐震・取壊しのどのパターンで売るか決めた
- 売却後の改修・取壊しなら翌年2月15日の期限を確認した
- 買主対応が必要なら売買契約の特約を確認した
- 被相続人居住用家屋等確認書を申請する
- 取得費加算との併用不可を確認した
- 確定申告に必要な書類を保管した
よくある質問
1981年5月31日以前の実家なら必ず3,000万円控除を使えますか?
使えるとは限りません。建築時期は条件の一つにすぎず、区分所有でないこと、相続直前の居住状況、相続後の利用状況、売却期限、価格、耐震・取壊しなど他の要件も満たす必要があります。
親が老人ホームに入ってから亡くなった場合も使えますか?
一定の要件を満たせば対象になる可能性があります。要介護・要支援等の認定、対象となる施設への入所、実家が家財保管等に引き続き使われ、賃貸・事業・他者居住に使われていないことなどを確認します。
親が施設ではなく子どもの家に移っていた場合は?
老人ホーム等入所に関する特例と同じ扱いにはなりません。国税庁・国土交通省は、親族宅や一般の賃貸住宅へ転居したケースはこの老人ホーム等の特例対象にならないと案内しています。
相続した実家を一度賃貸してから売っても使えますか?
原則として、相続から譲渡まで事業・貸付け・居住に使っていないことが要件となるため、賃貸利用は特例へ影響します。利用方法を変える前に確認してください。
売却前に建物を解体しないと使えませんか?
必ずしもそうではありません。耐震基準を満たす家屋付きで売る方法、先に取り壊して土地を売る方法、2024年以後の譲渡なら売却後翌年2月15日までに耐震改修・取壊しを行う方法があります。
買主が売却後に解体しても控除できますか?
2024年1月1日以後の一定の譲渡では、売却後、翌年2月15日までに家屋の全部が取り壊された場合に対象となり得ます。ただし実際に期限・要件を満たす必要があるため、買主の協力が必要なら売買契約の特約等で明確にしてください。
兄弟3人なら全員2,000万円までですか?
2024年1月1日以後の譲渡で、対象となる家屋・敷地等を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合は、控除上限が1人最高2,000万円になります。単に兄弟が3人いるだけで判断せず、取得関係を確認します。
被相続人居住用家屋等確認書はどこでもらいますか?
売却した実家が所在する市区町村へ申請します。申請窓口・必要書類・交付期間は自治体によって異なります。
市区町村の確認書が出れば控除を必ず使えますか?
必ず使えると確約する書類ではありません。確認書は一定の事実を自治体が確認した書類で、税務上の特例適用の最終判断は確定申告を受ける税務署が行います。
取得費加算と3,000万円控除は両方使えますか?
同じ対象不動産について、相続空き家の3,000万円特別控除と相続税の取得費加算を併用することはできません。両方の対象になりそうな場合は、税負担を比較してください。
控除を使えば確定申告は不要ですか?
いいえ。特例を利用するために確定申告が必要です。控除後の課税譲渡所得が0円になる場合でも、必要書類を添えて申告します。
相続空き家の特例は「売る前」に条件を確認する
相続空き家の3,000万円特別控除は、条件を満たせば税負担を大きく減らせる制度ですが、売却後には修正できない条件も多くあります。
建築年月日、親の居住状況、老人ホーム等への入所、相続後の実家の利用、売却期限を確認したうえで、現在の家を残して売る、更地にする、売却後に取壊すという方法を比較してください。
特に売却後の取壊しを使う場合は、買主の協力や契約条件まで含めて事前に不動産会社へ確認する必要があります。
税特例だけを理由に先に解体せず、現況での不動産査定と解体費を確認してから、税引後の最終的な手取りで売却方法を判断するとよいでしょう。
実家を売る・残す・管理するところから整理したい場合は、実家じまいの進め方もあわせて確認してください。