実家を3,000万円で売却できても、3,000万円がそのまま手元に残るわけではありません。
仲介で売るなら仲介手数料、紙の売買契約書を作れば印紙税、物件の状態によっては登記・測量・家財処分・解体などの費用が発生します。
さらに、売却によって利益が出れば譲渡所得に対する税金も確認する必要があります。
一方で、測量、家財処分、修繕、解体などは、実家を売る人全員に必ず発生する費用ではありません。
査定前にすべて片付けたり、古いからという理由だけで建物を壊したりすると、必要のない費用を先に使ってしまうこともあります。
実家売却では、まず現在の状態で査定を受け、売り方と引渡条件を確認してから必要な費用だけを見積もることが重要です。
実家売却にかかる費用の全体像
| 費用 | 発生する主なケース | 全員に必要? |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 不動産会社の仲介で売買が成立 | 仲介なら確認 |
| 印紙税 | 課税対象となる紙の売買契約書を作成 | 契約方式による |
| 抵当権抹消登記 | 住宅ローン等の抵当権が登記に残っている | 該当者のみ |
| 相続登記 | 亡くなった親名義の実家を相続して売る | 該当者のみ |
| 住所・氏名変更登記 | 登記上の住所・氏名と現在の情報が違う | 該当者のみ |
| 測量・境界確認 | 境界が不明、実測売買等の条件がある | 物件・契約による |
| 家財・残置物処分 | 売主が家を空にして引き渡す | 契約による |
| 解体費 | 売主が建物を取り壊して更地にする | 売り方による |
| 修繕・リフォーム | 売主が販売前に実施する場合 | 原則任意 |
| 住宅ローン完済関連 | 売却時点でローン残高がある | 該当者のみ |
| 譲渡所得に対する税金 | 売却で課税対象となる利益が生じる | 利益・特例による |
「実家を売る費用は売却価格の○%」と一律に考えるより、自分の実家でどの項目が発生するかを1つずつ確認した方が正確です。
実家売却の手取りはどう計算する?
実際に手元へ残る金額を考えるときは、次のように整理します。
最終手取り = 売却代金 − 売却に必要な諸費用 − 住宅ローン等の返済額 − 売却に伴う税金
ここで重要なのは、住宅ローン残高は「不動産会社へ払う売却費用」ではないという点です。
ただし、売却時にローンを完済しなければならない場合、売却代金から返済するため、最終的な手取りには大きく影響します。
費用1.仲介手数料
不動産会社へ仲介を依頼し、その会社の媒介によって売買契約が成立すると仲介手数料が発生します。
国が定めているのは不動産会社が依頼者から受け取れる「上限」です。
400万円を超える売買では、通常の上限を実務上次の速算式で計算できます。
売却価格 × 3.3% + 6万6,000円
たとえば3,000万円で実家を売却する場合、通常の仲介手数料上限は105万6,000円(税込)です。
また、2024年7月1日以後、売買価格800万円以下の宅地・建物については「低廉な空家等」の特例があり、一定の場合に依頼者一方につき税込33万円まで設定できます。
800万円以下だから必ず33万円になるわけではなく、上限の範囲内で媒介契約時に確認します。
費用2.売買契約書の印紙税
紙の不動産売買契約書は印紙税の課税対象です。
2026年時点では、不動産の譲渡に関する一定の契約書について、2027年3月31日まで軽減措置があります。
| 契約金額 | 軽減後の印紙税 |
|---|---|
| 100万円超500万円以下 | 1,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 5,000円 |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 1万円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 3万円 |
たとえば3,000万円の実家売買なら、軽減措置の対象となる紙の契約書の印紙税は1万円です。
一方、国税庁は電磁的記録は印紙税の課税対象となる「文書」には含まれないとしています。
電子契約を利用する場合は、実際に紙の課税文書を別途作成するかどうかも含めて不動産会社へ確認してください。
費用3.抵当権抹消登記
住宅ローンを利用した実家には、金融機関の抵当権が登記されていることがあります。
ローンを完済していても、抵当権抹消登記をしていなければ登記簿には抵当権が残っていることがあります。
通常、買主へ実家を引き渡す際には、この抵当権を抹消できる状態にします。
法務局の記載例では、土地1筆と建物1棟に設定された抵当権を抹消する場合、登録免許税は合計2,000円となっています。
つまり原則として不動産1個につき1,000円です。
司法書士へ手続きを依頼する場合は、登録免許税とは別に司法書士報酬等がかかります。報酬は全国一律ではありません。
住宅ローン残高は「費用」ではないが手取りに影響する
たとえば実家が3,000万円で売れても、住宅ローン残高が1,000万円あれば、決済時にその1,000万円を完済する必要があります。
この1,000万円は仲介手数料や印紙税のような売却費用ではありません。
しかし売却代金から返済するなら、手元に残る金額はその分だけ減ります。
売却前に金融機関へ現在の残高と、完済時の手続き・手数料を確認してください。
費用4.相続登記
親が亡くなった後も登記名義が親のままなら、実家を買主へそのまま所有権移転することはできません。
売却までに必要な相続登記を行います。
相続による所有権移転登記の登録免許税率は、原則として不動産価額の0.4%です。
ただし、2026年時点では一定の土地について2027年3月31日まで免税措置があります。
また、司法書士へ戸籍収集・遺産分割協議書・登記申請等を依頼する場合は別途報酬・実費がかかります。
相続人の人数や不動産数、相続関係の複雑さによって費用が変わるため、売却価格だけから一律には算定できません。
費用5.住所・氏名変更登記
登記簿上の所有者住所が昔の住所のままになっていることもあります。
2026年4月1日から住所・氏名変更登記も義務化されており、原則として変更日から2年以内に登記する必要があります。
実家を売却するなら、査定時点で現在の住所・氏名と登記内容が一致しているか確認してください。
費用6.測量・境界確認
土地を売るからといって、売主全員が必ず測量を行うわけではありません。
ただし、次のような実家では測量・境界確認が売却条件になることがあります。
- 境界標が見当たらない
- 隣地との境界が曖昧
- 古い土地で正確な面積が分かりにくい
- 実測面積を前提として売買する
- 土地を分筆して売る
- 越境の疑いがある
測量費は土地の広さ・形状・隣接地・道路・官民境界などによって変わります。
査定前に自主的に発注するのではなく、不動産会社へ「この物件ではどの測量まで必要か」を確認してから見積もると無駄を抑えやすくなります。
費用7.家財・残置物の処分費
親が生活していた実家には、家具・家電・衣類・食器・布団などが大量に残っていることがあります。
仲介で一般の買主へ売却する場合、引渡しまでに売主側で撤去する契約になるケースがあります。
一方、不動産会社等による直接買取では、残置物がある状態での買取に対応する会社もあります。
そのため、査定前に数十万円かけて家財を全部捨てる必要はありません。
重要書類・現金・貴重品・家族が残したい物を確保したら、まず家財が残った状態で査定を受け、売却方法を決めてから必要な処分だけ行います。
費用8.解体費
築年数が古い実家でも、売却前に必ず解体する必要はありません。
売り方には、
- 中古戸建として売る
- 古家付き土地として売る
- 売買契約後に更地渡しにする
- 売主が先に解体して更地で売る
- そのまま不動産会社等へ買い取ってもらう
などがあります。
先に解体すると、実際に売れなくても解体費は戻ってきません。
また、建物を取り壊すことで住宅用地に対する固定資産税等の特例が使えなくなる場合もあります。
解体前に、少なくとも「古家付き現況査定」「更地にした場合の想定査定」「解体見積もり」を比較してください。
費用9.修繕・リフォーム費
実家を少しでも高く売ろうとして、売却前にキッチン・浴室・外壁などを大規模にリフォームする必要はありません。
300万円かけてリフォームしても、売却価格が300万円以上高くなる保証はありません。
買主自身が好みに合わせてリフォームしたいケースもあります。
まず現状の査定を受け、修繕した場合にどの程度販売条件が変わるのかを確認してから判断します。
費用10.譲渡所得に対する所得税・住民税
実家を売却して利益が生じると、譲渡所得に対する所得税・住民税等がかかる場合があります。
売却代金全額に税率を掛けるわけではありません。
基本的な計算は、
譲渡所得 = 売却代金 − 取得費 − 譲渡費用 − 特別控除
です。
国税庁は、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、一定の取壊し費用などを、土地・建物を売るために直接かかった譲渡費用の例として挙げています。
親から相続した実家なら、取得費・取得時期を原則として親から引き継ぎます。
また、条件を満たせばマイホームの3,000万円控除や、相続空き家の3,000万円控除などを利用できる場合があります。
売却益がなければ必ず税金ゼロ?
譲渡所得に対する所得税・住民税は、取得費・譲渡費用等を差し引いて課税対象となる利益がなければ基本的に発生しません。
ただし、売買契約書の印紙税や登記関係の登録免許税などは、譲渡所得税とは別の税金です。
「売却で利益がない=売却に関する税金が何もない」とは限りません。
3,000万円で実家を売却した場合の費用例
次のようなシンプルなケースを考えます。
- 売却価格:3,000万円
- 不動産会社の仲介で売却
- 仲介手数料は通常上限
- 紙の売買契約書を作成
- 土地1筆・建物1棟に抵当権が残っている
- 測量・家財処分・解体は不要
- 司法書士報酬や譲渡所得税は別計算
| 項目 | 金額例 |
|---|---|
| 仲介手数料上限 | 105万6,000円 |
| 印紙税 | 1万円 |
| 抵当権抹消の登録免許税 | 2,000円 |
| 合計 | 106万8,000円+司法書士報酬等 |
この例なら、測量・片付け・解体・税金等を除いた段階で、約106万8,000円の費用が発生します。
ただし、抵当権がなければ抹消費用は不要であり、電子契約で紙の課税文書を作成しなければ印紙税の扱いも変わります。
反対に、家財処分・境界確定・解体等が必要なら費用は増えます。
低価格の実家は費用割合が大きくなりやすい
地方の築古実家などで売却価格が数百万円の場合は、費用額そのものが小さくても、売却価格に占める割合が大きくなることがあります。
特に800万円以下では、仲介手数料について低廉な空家等の特例が使われる場合があります。
また、境界確定や家財処分、解体が必要なら、数百万円の売却価格に対して費用負担が重くなる可能性があります。
低価格物件では、仲介の想定売却価格だけでなく、直接買取の査定も含めて最終手取りを比較すると判断しやすくなります。
直接買取なら減らせる費用もある
不動産会社自身が買主となる直接買取で、その取引に仲介会社が介在しなければ、その会社への仲介手数料は発生しません。
さらに、会社によっては、
- 残置物がある状態
- 古い建物を残した状態
- 修繕していない状態
での買取に対応する場合があります。
その場合、売主が先に家財処分・修繕・解体へ費用を使わずに済む可能性があります。
ただし、買取価格は仲介で一般市場へ売る場合の価格とは異なります。
「仲介手数料がないから買取の方が得」と決めず、最終手取りと売却期間・負担を比較してください。
査定前に払わなくていい費用を先払いしない
実家売却で大きな支出になりやすいのは、仲介手数料だけではありません。
家財撤去、測量、修繕、リフォーム、解体などを先に行うと、数十万〜数百万円単位の支出になることがあります。
しかし、これらは物件・契約・売り方によって不要な場合があります。
そのため、次の順番で進めます。
- 現在の状態で不動産査定を受ける
- 仲介・直接買取の条件を比較する
- 買主へどの状態で引き渡すか確認する
- 必要な測量・片付け・修繕・解体を特定する
- 必要なものだけ複数見積もりを取る
「売るためには最初に家を空にしなければならない」「古い家は先に壊さなければならない」という前提を置かないことが重要です。
見積もりで確認したい項目
- 想定売却価格
- 仲介手数料
- 印紙税
- 必要な登記と費用
- 司法書士等の報酬
- 測量が必要か
- 家財をどこまで撤去する必要があるか
- 修繕は必要か
- 解体する必要があるか
- 住宅ローン完済時の金額・手数料
- 売却後の譲渡所得税の概算
- 最終的に手元へ残る金額
複数社査定では「査定額」ではなく「手取り」を比較する
A社が3,000万円、B社が2,900万円と査定しても、A社の方が必ず100万円多く手元に残るとは限りません。
たとえばA社では売主負担で測量・家財撤去が必要、B社では現況のまま売れるという条件なら差は縮まります。
査定を比較するときは、各社へ次のように聞くと分かりやすくなります。
- この査定額の根拠は何ですか?
- 想定する成約価格はいくらですか?
- 売主が負担する作業は何ですか?
- 測量・片付け・修繕・解体は必要ですか?
- 仲介手数料を含めた売却費用はいくらですか?
- 最終手取りはいくらを想定していますか?
- 直接買取ならいくらですか?
実家売却で避けたい費用の使い方
- 査定前に家財を全部処分する
- 古いという理由だけで先に解体する
- 査定前に大規模リフォームする
- 境界確認前に自己判断で測量を発注する
- 住宅ローン残高を売却費用として混同する
- 仲介手数料だけで不動産会社を比較する
- 査定額と実際の手取りを同じものとして考える
- 譲渡所得税を売却代金全額に掛けて計算する
- 親の購入時契約書を片付けで捨てる
よくある質問
実家を売却すると費用はいくらかかりますか?
物件によって違います。仲介なら仲介手数料、紙の売買契約書なら印紙税を確認し、抵当権、相続登記、測量、家財、解体、税金などは物件条件に応じて追加します。一律に売却価格の何%と決めるより、必要項目を個別に確認する方が正確です。
3,000万円で実家を売った場合の仲介手数料はいくらですか?
通常の仲介手数料上限は105万6,000円(税込)です。実際の仲介手数料は上限の範囲内で媒介契約時に確認します。
3,000万円の売買契約書の印紙はいくらですか?
2027年3月31日までの軽減措置対象となる紙の不動産売買契約書なら、1,000万円超5,000万円以下の印紙税は1万円です。
実家の測量は必ず必要ですか?
必ずではありません。境界・面積・売買契約の条件などによって必要性が変わります。査定時に不動産会社へ、現況の資料で売却できるか、どこまで測量が必要かを確認してください。
家財を全部片付けないと売れませんか?
査定前に全部撤去する必要はありません。仲介では引渡しまでに撤去する条件になる場合がありますが、買主との合意や直接買取では残置物ありの状態で売却できる場合もあります。
古い実家は解体してから売るべきですか?
一律にはいえません。古家付きのまま売る、解体して更地で売る、売却後に解体する、直接買取へ出す方法があります。先に現況査定と解体見積もりを取り、手取りを比較してください。
住宅ローン残高も売却費用ですか?
仲介手数料などと同じ意味での売却費用ではありません。ただし、抵当権を抹消して売却するために完済する必要がある場合、売却代金から返済するので手取り計算には含めます。
実家を売ったら必ず所得税がかかりますか?
必ずではありません。売却代金から取得費・譲渡費用・利用できる特別控除を差し引いて課税対象となる譲渡所得があるか確認します。
不動産会社の買取なら費用は安くなりますか?
直接買取で仲介会社が介在しなければ仲介手数料が不要になり、残置物・修繕・解体を売主が先に行わずに済む場合があります。一方、買取価格自体が仲介の想定成約価格と異なるため、最終手取りで比較してください。
実家売却では費用をかける前に査定する
実家売却で最初に必要なのは、片付け・測量・リフォーム・解体へお金を使うことではありません。
まず現在の土地・建物・家財の状態で査定を受けます。
そのうえで、仲介ならどの状態で引き渡す必要があるのか、直接買取なら何を残したまま売れるのかを確認します。
複数社について、売却価格、仲介手数料、測量・片付け・解体等の売主負担、税金、売却期間まで並べると、本当に比較すべき「最終手取り」が見えてきます。
実家を売る・残す・管理するところから整理したい場合は、実家じまいの進め方もあわせて確認してください。