親が亡くなったり施設へ入ったりした実家には、家具、家電、衣類、食器、布団、書類などが生活していた当時のまま残っていることがあります。
家を売りたいと思っても、「まず全部片付けないと不動産会社に査定してもらえないのでは」と考え、片付けだけで止まってしまうケースもあります。
残置物がある状態でも、不動産の査定を受けることはできます。また、買主との条件が合えば、残置物を残した状態で売却できる場合もあります。
ただし、何も決めずに荷物を残して引き渡してよいという意味ではありません。
仲介で一般の買主へ売るのか、不動産会社等へ直接買い取ってもらうのかによって、片付けの範囲や費用負担は変わります。
そのため、実家・空き家の残置物は「全部片付けてから売却相談」ではなく、重要品を確保したうえで現状査定を受け、売却方法を決めてから必要な物だけ処分する順番が合理的です。
残置物がある家でも売却できる
残置物があるから不動産そのものを売却できない、というわけではありません。
主な進め方は次の3つです。
| 売り方 | 残置物の扱い | 向きやすいケース |
|---|---|---|
| 仲介+売主が撤去 | 引渡しまでに売主側で片付ける | 一般の買主へ広く売りたい |
| 仲介+残置物ありで合意 | 買主との契約で残す物・処分主体・費用を決める | 買主が現状での引渡しに合意する |
| 不動産会社等の直接買取 | 残置物ありの現況で対応する会社もある | 片付け負担や売却期間を抑えたい |
どの方法でも、残置物の扱いは契約条件として確認する必要があります。
査定前に家財を全部片付ける必要はない
不動産会社へ価格を見てもらう段階で、家具や生活用品を完全に撤去しておく必要はありません。
建物や土地の状態をある程度確認できれば、残置物がある状態でも査定相談はできます。
むしろ大量の家財を先に処分すると、売却方法を決める前に数十万円単位の費用を使うことになったり、必要な書類まで捨ててしまったりする可能性があります。
先に現状で査定し、「仲介ならどこまで撤去する必要があるか」「買取ならこのまま引き渡せるか」を聞いてから片付け範囲を決めます。
片付ける前に必ず探したいもの
売却前の片付けでは、捨てる物を探すより先に「捨ててはいけない物」を確保します。
- 権利証・登記識別情報
- 購入時の売買契約書
- 建築請負契約書
- 土地・建物購入時の領収書
- 測量図・境界資料
- 確認済証・検査済証
- リフォーム・増改築資料
- 固定資産税関係書類
- 通帳・印鑑
- 現金・貴金属
- 有価証券や保険関係書類
- 遺言書・相続関係書類
- 写真・手紙など家族が残したい物
特に購入時の契約書や領収書は、売却後の譲渡所得を計算するときに取得費を確認する資料になる可能性があります。
仲介では残置物をどうする?
一般の個人などを買主として仲介で売る場合は、売買契約で定めた状態にして物件を引き渡します。
家財を撤去した状態で引き渡す条件なら、売主側で決済・引渡しまでに撤去します。
一方、買主が残置物のある状態での引渡しに同意するのであれば、残した状態で契約することも考えられます。
この場合は、「現状渡し」とだけ書いて済ませず、少なくとも次の内容を具体的に決めます。
- どの家具・家電を残すのか
- 買主が処分する物は何か
- 処分費用を誰が負担するか
- 売主が持ち出す物は何か
- 引渡し後に残置物について追加請求しない条件か
売主と買主で認識が違うと、引渡し後のトラブルにつながるため、残置物の扱いは不動産会社と相談して売買契約書・特約等へ明確に反映します。
「現況渡し」なら荷物を全部残していいわけではない
不動産売買では「現況有姿」「現況渡し」といった言葉が使われることがあります。
しかし、現況渡しというだけで、家の中の家具・家電・衣類まで無条件に買主が引き取ることになるとは限りません。
建物の現況と、室内に残っている動産の処理は分けて確認します。
「家も荷物も今のまま渡せると思っていた」という認識違いを防ぐためにも、残す物と撤去する物を契約前に整理してください。
直接買取なら残置物をそのままにできる?
不動産会社・買取事業者へ直接売る場合は、残置物ありの現状で査定・買取する会社があります。
買取会社は購入後にリフォーム、解体、再販売などを行うことがあるため、売主が先に家財をすべて撤去しなくても取引できる場合があります。
ただし、「買取なら何でも残せる」という全国共通の仕組みではありません。
- 家具・衣類
- 冷蔵庫・洗濯機などの家電
- 仏壇
- 金庫
- 大量の生活ごみ
- 危険物
- 車両
など、会社や物件によって扱いが変わります。
「残置物処分無料」と案内されている場合も、処分に必要なコストを含めて不動産の買取価格を算定している可能性があります。
無料という言葉だけで比較せず、最終的な買取価格と手取りで判断してください。
仲介と買取は「片付け費込みの手取り」で比較する
残置物が大量にある実家では、売却価格だけを比較すると実際の負担が分かりません。
たとえば仲介の想定成約価格が買取より高くても、売主側で家財撤去、清掃、修繕、遠方からの立会いなどが必要なら、その分だけ手取りや負担が変わります。
次のように考えると比較しやすくなります。
仲介の手取り見込み = 想定成約価格 − 仲介手数料 − 残置物撤去費 − 必要な修繕・測量等 − 売却までの維持費 − 税金等
買取の手取り見込み = 正式な買取価格 − 契約上の売主負担費用 − 税金等
残置物ありで売却したい場合は、「全部片付けた仲介」と「荷物そのままの買取」を査定額だけで比べず、条件をそろえて最終手取りを確認します。
処分費はいくらかかる?
残置物の処分費用は、全国一律ではありません。
同じ3LDKでも、家財の量や種類、階段作業、トラックを停められる場所、分別状況、家電リサイクル対象品、作業人数などで費用は変わります。
そのため、「1部屋○万円」といった数字だけで予算を決めず、実際の現場を見てもらった見積もりで比較してください。
また、不動産売却と片付けを別々に考えず、片付け前の不動産査定と残置物撤去見積もりを取ったうえで、費用をかける価値があるか判断します。
売れる物は捨てる前に分ける
家財の中には、廃棄するより売却・譲渡した方がよい物が含まれている場合があります。
- 比較的新しい家電
- ブランド家具
- 骨董品・美術品
- 貴金属
- 着物
- 工具
- 趣味用品
- 未使用品
ただし、亡くなった親の所有物の場合は、相続財産として扱う必要がある物もあります。
相続人間で誰が取得するか決まっていない物を、家族の一人だけで勝手に売却・処分しないよう注意してください。
相続放棄を考えているなら遺品処分を急がない
親が亡くなり、借金なども含めて相続放棄を検討している段階では、遺品の売却・処分を急がない方が安全です。
相続放棄は、原則として自分のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述します。
遺産を処分した場合の扱いは、その物や処分理由・内容など具体的事情によって判断が変わる可能性があります。
「遺品を1点捨てたら必ず相続放棄できない」と単純化することも、「全部捨てても問題ない」と考えることも避け、相続放棄を考えている場合は家庭裁判所や弁護士等へ確認してから進めてください。
家庭ごみの処分は無許可の回収業者へ頼まない
家具・生活用品などを売主側で廃棄物として処分する場合は、所在地の自治体が案内する方法を確認します。
環境省は、家庭の廃棄物を回収するには、市区町村の一般廃棄物処理業の許可または市町村からの委託が必要と案内しています。
「産業廃棄物処理業の許可がある」「古物商許可がある」というだけでは、家庭から出る廃棄物を回収できる根拠にはなりません。
不用品回収を依頼する場合は、自治体の案内や実際の収集運搬ルートを確認してください。
テレビ・冷蔵庫などは家電リサイクル法の対象
家の中に残った家電の中には、通常の粗大ごみと同じ方法では処分しない物があります。
家電リサイクル法の対象となる主な4品目は次のとおりです。
- エアコン
- テレビ
- 冷蔵庫・冷凍庫
- 洗濯機・衣類乾燥機
買替えの場合は新しい製品を購入する店、処分だけの場合は購入した店への依頼などが基本で、購入店が分からない場合は自治体が案内する方法を確認します。
不動産会社や片付け会社へまとめて依頼する場合も、実際にどのルートで適正処理されるのか確認すると安心です。
遠方の実家は片付け前に現地対応を確認する
実家が遠方にある場合、残置物の処分だけのために何度も帰省すると時間・交通費が大きくなります。
不動産会社へ査定を頼む段階で、次のことを確認してください。
- 家財が残った状態でも訪問査定できるか
- 所有者本人の立会いが必要か
- 鍵を預けて確認できるか
- 残置物ありの直接買取が可能か
- 片付け業者を紹介できるか
- 売却後まで何回現地へ行く必要があるか
不動産価格だけでなく、帰省回数や片付けに使う時間も含めて売り方を比較します。
残置物ありで売るとき契約前に確認すること
- 引渡しまでに売主が撤去する物
- そのまま残す物
- 残した物を誰が処分するか
- 処分費を誰が負担するか
- エアコン等の設備を残すか撤去するか
- 残置物の扱いを売買代金にどう反映しているか
- 鍵・重要書類・貴重品をすべて回収したか
- 契約後に追加撤去を求められる条件がないか
口頭で「そのままで大丈夫です」と言われただけで進めず、売買契約書や特約の内容を確認します。
残置物がある実家を売却する流れ
- 土地・建物の所有者と相続状況を確認する
- 相続放棄を検討しているか確認する
- 重要書類・現金・貴重品を探す
- 捨てる前に売却・譲渡できる物を分ける
- 家財を残した状態で不動産査定を受ける
- 仲介・直接買取の両方を必要に応じて比較する
- 売主が処分する物だけ見積もりを取る
- 家庭ごみ・家電4品目を適切なルートで処分する
- 残す物・費用負担を契約書で確認する
- 必要な片付けだけ行う
- 売買契約・決済・引渡しを行う
残置物あり売却で避けたい進め方
- 不動産査定より先に家財を全部処分する
- 権利証や購入時資料まで捨てる
- 相続放棄を検討中なのに遺品を次々売る
- 無許可の家庭ごみ回収業者へ依頼する
- 家電4品目を普通の粗大ごみと同じ扱いにする
- 「現況渡しだから全部残してよい」と思い込む
- 「買取だから残置物処分は必ず無料」と考える
- 処分費を含めず査定額だけ比較する
よくある質問
残置物があっても家を売却できますか?
できます。査定前に家財をすべて撤去する必要はありません。仲介では引渡しまでに撤去する条件になることが多い一方、買主との合意や直接買取では残置物がある状態で引き渡せる場合があります。
家財を片付けてから不動産会社へ頼むべきですか?
先に現状査定を受ける方法があります。売却方法によって必要な片付け範囲が違うため、重要書類・貴重品だけ確保してから相談すると、不要な処分費を使わずに済みます。
買取なら荷物を全部残せますか?
残置物ありで買い取る会社はありますが、すべての会社・物件で可能とは限りません。家電、仏壇、危険物等を含め、何を残せるか査定時に確認してください。
残置物の処分費は誰が払いますか?
契約条件によります。売主が撤去費を負担する場合、売買価格から考慮する場合、買主が引き受ける条件などがあります。誰がどこまで負担するのかを契約前に明確にします。
現況渡しなら家具や家電もそのままでいいですか?
現況渡しという言葉だけでは判断できません。建物の状態と、室内の動産を誰が処分するかは分けて契約内容を確認してください。
不用品回収業者ならどこでも頼めますか?
家庭から出る廃棄物を回収するには、市区町村の一般廃棄物処理業許可または市町村からの委託等が必要です。産業廃棄物処理業や古物商の許可だけで家庭ごみを回収できるわけではありません。
テレビや冷蔵庫も不用品回収に出せますか?
テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、エアコン、洗濯機・衣類乾燥機は家電リサイクル法の対象です。購入店への引取り依頼や自治体が案内する方法など、対象品目に合った処分ルートを確認してください。
相続放棄を考えていても遺品を捨てていいですか?
相続財産の処分は相続放棄に影響する可能性があり、個別事情で判断が変わります。相続放棄を考えている場合は遺品の売却・大量処分を急がず、家庭裁判所や弁護士等へ確認してから進めてください。
残置物がある家は「片付けてから査定」ではなく「査定してから片付ける」
残置物が大量に残った実家・空き家でも、最初から家を空にする必要はありません。
重要書類・貴重品と相続状況を確認したら、まず現在の状態で不動産査定を受けます。
仲介で売るなら引渡しまでに必要な撤去範囲を確認し、直接買取なら残置物ありの条件で正式な買取価格を確認します。
そのうえで、片付け費を差し引いた最終的な手取りと、売却までにかかる時間・家族の負担を比べてください。
実家を売る・残す・管理するという全体の方針から整理したい場合は、実家じまいの進め方もあわせて確認してください。
参考にした公的・関連情報
- 環境省「廃棄物の処分に『無許可』の回収業者を利用しないでください!」
- 経済産業省「家電4品目の正しい処分」
- 裁判所「相続の放棄の申述」
- アットホーム「不動産売却で残置物があるとトラブルになる?」