親が施設へ入った、実家を相続した、誰も住む予定がない。実家の売却を考え始めたとき、最初に知りたいのが「この家はいくらくらいで売れるのか」です。
ただし、不動産会社から出された査定額は、その金額で必ず売れることを保証する数字ではありません。
同じ実家を査定しても、不動産会社によって査定額が違うことがあります。
大切なのは、一番高い査定額だけを見るのではなく、なぜその価格なのか、どのような売り方を想定しているのか、どれくらいの期間での成約を見込んでいるのかまで比較することです。
家財が残っている実家や古い空き家でも、査定前に全部片付けたり解体したりする必要があるとは限りません。まず現在の状態を見てもらい、その後に必要な作業を判断した方が余計な費用を使わずに済みます。
実家の査定はどこに頼む?
実家を市場で売却したい場合は、実家がある地域の売買仲介を扱う不動産会社へ査定を依頼するのが基本です。
候補になるのは、大きく分けると次のような会社です。
- 全国展開している大手不動産会社
- 実家の地域に強い地場の不動産会社
- 戸建て・土地売却に強い会社
- 空き家・築古住宅を多く扱う会社
- 直接買取にも対応する会社
会社の規模だけで優劣が決まるわけではありません。
実家のある地域で実際に戸建て・土地を売った経験があるか、その物件をどのような買主へ売るつもりなのかを確認することが重要です。
実家の査定は何社に頼む?
不動産査定を必ず何社へ依頼しなければならないという法定の社数はありません。
一方、1社だけでは、その査定額が地域相場と比べて高いのか低いのか判断しにくくなります。
初めて査定するなら、まず2〜3社程度を比較対象にすると、査定根拠や担当者の提案を比較しながら内容を把握しやすくなります。
これは公的に定められた推奨社数ではなく、比較と連絡負担のバランスを取りやすい実務上の目安です。
最初から多くの会社へ訪問査定を依頼する必要もありません。まず机上査定で複数社を比較し、その中から実際に売却候補となる会社へ訪問査定を依頼する方法があります。
机上査定と訪問査定の違い
不動産会社の査定には、大きく「机上査定」と「訪問査定」があります。
| 比較 | 机上査定 | 訪問査定 |
|---|---|---|
| 現地訪問 | 原則なし | 担当者が現地を確認 |
| 主な情報 | 所在地・面積・築年・周辺取引事例など | 机上情報+土地・建物の実際の状態 |
| 向いている段階 | 売却を検討し始めた段階 | 売却を具体的に進める段階 |
| 確認できる内容 | 概算価格・相場感 | 接道・建物状態・日当たり・境界・残置物等も含めた提案 |
| 手間 | 比較的少ない | 日程調整・立会い等が必要 |
机上査定とは
机上査定は簡易査定とも呼ばれ、担当者が実家を直接見ずに価格を算出します。
主に次のような情報を使います。
- 所在地
- 土地面積
- 建物面積
- 築年数
- 構造
- 間取り
- 周辺の取引事例
- 地価・市場動向
まだ売ると決めておらず、「今売ったらどのくらいか」を知りたい段階で利用しやすい方法です。
ただし、実際の建物状態や土地の細かな条件を見ていないため、最終的な売却提案では金額が変わることがあります。
訪問査定とは
訪問査定では、不動産会社の担当者が実際に物件を確認します。
戸建てでは、机上の情報だけでは分からない次のような条件も確認できます。
- 建物の劣化状態
- 雨漏りや目立つ不具合
- リフォーム・増改築履歴
- 前面道路・接道状況
- 土地の形状
- 高低差
- 日当たり
- 隣地との境界・越境
- 家財・残置物の量
- 周辺の実際の環境
実際に売却を進めるのであれば、机上査定だけで会社を決めず、候補となる会社には訪問査定を依頼して具体的な販売方法まで確認する方がよいでしょう。
査定前に準備するとよい情報
すべての資料がそろっていなくても査定相談はできますが、分かる範囲で物件情報を整理しておくと話が早くなります。
- 実家の住所
- 土地面積
- 建物面積
- 築年
- 建物構造
- 間取り
- 現在空き家か、親が居住中か
- 土地・建物の名義
- 共有者の有無
- リフォーム・増改築履歴
- 分かっている不具合
- 境界資料・測量図等の有無
- 家財が残っているか
- 希望する売却時期
正確な面積が分からなければ、固定資産税関係書類、登記事項証明書、購入当時の契約書などを確認します。
査定前に家財を全部片付けなくてもよい
親の実家には、家具、衣類、家電、食器など大量の家財が残っていることがあります。
しかし、査定を受けるだけなら、必ず家を空にしてから依頼する必要があるとは限りません。
むしろ先に確保したいのは、売却や税金に関係する可能性がある資料です。
- 購入時の売買契約書
- 建築請負契約書
- 購入時の領収書
- 権利証・登記識別情報
- 測量図
- 建築確認関係書類
- リフォーム関係資料
- 重要な相続書類
- 通帳・印鑑・貴重品
そのうえで現在の状態を査定してもらい、「仲介ならどこまで片付ける必要があるか」「買取なら残置物を残せるか」を確認してから処分方法を決めます。
査定前にリフォームした方が高くなる?
古い実家だからといって、査定前に大規模なリフォームをする必要はありません。
リフォームへ300万円かけても、売却価格が300万円以上上がるとは限らないためです。
先に現状で査定を受け、必要なら不動産会社へ次の3つを確認します。
- 現状のまま売った場合の想定価格
- 修繕・リフォームした場合の想定価格
- 買取の場合の価格
費用を使ってから査定するのではなく、費用を使う価値があるかを査定結果から判断します。
古い実家でも査定前に解体しない
築古住宅では、「建物に価値がなさそうだから壊してから査定した方がよい」と考えることがあります。
しかし、解体は元に戻せません。
古家付きのまま買う人がいる可能性や、中古住宅として利用できる可能性もあります。また、解体には費用がかかり、土地の固定資産税の扱いが変わる場合もあります。
まず現在の建物を残した状態で査定を受け、必要なら次の3つを比較します。
- 古家付きのまま売る場合の査定
- 更地にした場合の想定査定
- 実際の解体見積額
実家の査定額はどう決まる?
戸建ての査定では、土地と建物を分けて評価し、全体として価格を検討する方法があります。
公益財団法人不動産流通推進センターの既存住宅価格査定マニュアルでは、戸建住宅の建物について原価法、住宅地について事例比較法を採用しています。
土地で見られやすい項目
- 所在地
- 土地面積
- 形状
- 前面道路
- 間口
- 高低差
- 用途地域などの法令上の条件
- 駅・生活施設等への距離
- 周辺の取引事例
建物で見られやすい項目
- 築年
- 構造
- 延床面積
- 建物の仕様
- 維持管理状態
- リフォーム履歴
- 設備
- 劣化状況
実際の不動産会社が全社同じ査定方法を使うわけではありません。
使用する取引事例、物件の評価、今後の市況の見方、販売戦略などが違うため、会社ごとに査定額に差が出ることがあります。
査定額が会社ごとに違うのはおかしい?
査定額が違うこと自体が、直ちにどこかの会社の査定が間違っているという意味ではありません。
たとえば同じ実家でも、次のような違いがあります。
- 参考にした過去の成約事例
- 建物の評価方法
- 土地の個別条件の評価
- 今後の地域需要の見通し
- どの買主層を想定しているか
- 中古戸建として売るか、土地として売るか
- 売却期間をどの程度想定しているか
そのため、単に数字を並べるのではなく、査定価格の根拠を聞くことが重要です。
一番高い査定額の会社を選べばいい?
一番高い査定額を出した会社へ依頼すれば、一番高く売れるとは限りません。
査定額は実際に買主が提示した購入価格ではないためです。
他社より明らかに高い査定が出た場合は、次の点を確認してください。
- どの成約事例を参考にしたか
- 土地価格をどう評価したか
- 建物にいくらの価値を見込んでいるか
- 最初の売出価格はいくらを想定しているか
- どのくらいの期間で売れる想定か
- 値下げする場合はいつ、どの程度か
- どのような買主へ販売する予定か
「高く査定しました」だけでなく、「なぜその金額で売れると考えているのか」を説明できる会社を比較します。
査定書で見るのは金額だけではない
複数社から査定を受けたら、次の項目を並べて比較します。
| 比較項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 査定額 | 他社との差が大きすぎないか |
| 査定根拠 | 成約事例や土地・建物の評価が具体的か |
| 売出価格 | 査定価格と実際の販売開始価格をどう考えるか |
| 想定売却期間 | 短期なのか数か月以上なのか |
| 販売方法 | どこへ広告し、どの買主を狙うか |
| 築古対応 | 中古戸建・古家付き土地のどちらで売るか |
| 残置物 | 撤去が必要か、対応業者を紹介できるか |
| 買取 | 直接買取にも対応できるか |
| 担当者 | 質問への回答が具体的か |
国の不動産情報ライブラリでも相場を確認できる
不動産会社の査定だけでなく、自分でも周辺の取引価格を確認できます。
国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では、不動産取引価格情報や成約価格情報、地価公示、都道府県地価調査などを見ることができます。
近隣で、土地と建物が実際にどの程度の金額で取引されたかを確認すると、査定額を見る際の参考になります。
ただし、近所の家が3,000万円で売れたから自分の実家も3,000万円ということではありません。
面積、土地形状、前面道路、築年、建物状態、取引時期、個別の取引事情などによって価格は変わります。
仲介査定と買取査定は同じ数字として比較しない
実家の査定では、「仲介で売る場合の査定」と「不動産会社が直接買い取る場合の査定」があります。
| 比較 | 仲介査定 | 買取査定 |
|---|---|---|
| 意味 | 市場で買主を探した場合に見込む売却価格 | 不動産会社等が直接購入する価格 |
| 買主 | 一般の個人・法人等 | 不動産会社等 |
| 販売活動 | 必要 | 通常は一般向け販売を行わない |
| 価格 | 市場で高く売れる可能性がある | 再販売・修繕等を見込んだ価格になる |
| 期間 | 買主が決まるまで変動 | 条件が合えば短く進めやすい |
仲介査定が3,000万円、買取査定が2,400万円だったとしても、「買取会社の査定能力が低い」という意味ではありません。
そもそも数字の意味が違います。
早く売りたい、遠方で何度も対応できない、大量の残置物がある、建物の状態が悪いといった事情がある場合は、仲介だけでなく買取条件も比較すると判断しやすくなります。
通常の不動産査定と「不動産鑑定」は別
売却時に不動産会社が行う価格査定と、不動産鑑定士が行う不動産鑑定評価は同じものではありません。
通常の実家売却で知りたいのは、「現在の市場でどのくらいで売れそうか」という売却査定です。
一方、不動産鑑定評価は、不動産鑑定士が法令や不動産鑑定評価基準に基づいて行う専門的な評価です。
相続人間で不動産評価について争いがある、裁判・税務・法人取引などで正式な評価が必要といった場合には、通常の無料査定だけでなく不動産鑑定士への相談が必要になることがあります。
査定を依頼する不動産会社の確認方法
知らない不動産会社へ依頼する場合は、会社名やウェブサイトだけで判断せず、宅地建物取引業の免許も確認できます。
国土交通省の「宅地建物取引業者検索」では、国土交通大臣または都道府県知事が免許をした宅地建物取引業者を検索できます。
国土交通省には、宅地建物取引業者に対する過去5年分の免許取消・業務停止・指示などを確認できる「ネガティブ情報等検索サイト」もあります。
行政処分歴があるという事実だけで現在のサービス品質を機械的に判断するものではありませんが、会社を確認するための公的情報の一つとして利用できます。
遠方の実家は訪問査定の立会い回数も確認する
実家が遠方にある場合、査定のためだけに何度も帰省するのは負担になります。
査定会社を選ぶ段階で次の内容を確認しておくと、移動を減らしやすくなります。
- 机上査定を先に受けられるか
- 訪問査定に所有者本人の立会いが必要か
- 家族が立ち会ってもよいか
- 鍵を預けて確認してもらえるか
- 査定書をメール等でもらえるか
- オンラインで説明を受けられるか
- 媒介契約後の現地対応をどこまで任せられるか
ただし、鍵を預ける場合は、保管方法や返却方法も確認してください。
査定を受けたら必ず売らないといけない?
査定は、実家の売却可能価格を知り、売却するかどうかを判断する材料として利用できます。
「今売るとこのくらい」という価格を知った結果、しばらく保有する判断をすることもあります。
ただし、保有を続ける場合は、固定資産税、火災保険、草刈り、空き家管理、修繕、遠方なら交通費なども続きます。
現在の査定価格だけでなく、今後数年間の維持費も一緒に比較すると、売却時期を判断しやすくなります。
実家の査定で比較するチェックリスト
- 土地・建物の登記名義を確認した
- 土地・建物面積を確認した
- 築年・構造を確認した
- リフォーム履歴を整理した
- 分かっている不具合を伝えた
- 家財が残っていることを伝えた
- 査定前に家財を全部捨てていない
- 査定前に大規模リフォームをしていない
- 査定前に解体していない
- 複数社を同じ条件で比較した
- 査定額の根拠を聞いた
- 想定売出価格を聞いた
- 想定売却期間を聞いた
- どのような買主へ売るか聞いた
- 仲介と買取を混同していない
- 周辺相場も自分で確認した
- 宅建業者の免許を確認した
よくある質問
実家の査定は何社に頼むのがいいですか?
法定の社数はありません。1社だけでは比較しにくいため、初めてなら2〜3社程度から比較すると査定額・根拠・販売提案の違いを把握しやすくなります。これは公的な必須社数ではなく実務上の目安です。
机上査定だけでも売却できますか?
机上査定は相場を把握するのに向いていますが、実際に売却を具体化するなら、候補会社には訪問査定を依頼し、建物・土地の現況を踏まえた提案を確認した方がよいでしょう。
家財が残った実家でも査定できますか?
査定できる場合が多くあります。重要書類・貴重品を確保し、家財が残っていることを伝えたうえで現況査定を依頼し、売却方法が決まってから撤去範囲を確認します。
古い家は解体してから査定した方がいいですか?
先に解体する必要はありません。古家付きで売れる可能性もあるため、まず現況査定を受け、更地想定価格と解体見積を比較してから判断してください。
高い査定額を出した会社へ依頼した方がいいですか?
査定額だけでは判断できません。参考にした成約事例、想定売出価格、売却期間、販売方法など、なぜその価格を提示できるのかを比較してください。
査定額と実際の売却価格は同じですか?
同じとは限りません。査定は売却価格を検討するための価格提案であり、実際の成約価格は買主との交渉、市況、販売期間などでも変わります。
仲介査定と買取査定はどちらが正しいですか?
どちらも目的が違います。仲介査定は市場で買主を探した場合の価格を検討するもの、買取査定は不動産会社等自身が購入する価格です。数字だけをそのまま比較しないようにしてください。
不動産会社の無料査定と不動産鑑定は同じですか?
別です。通常の売却査定は不動産会社が売却価格を検討するために行う査定です。不動産鑑定評価は不動産鑑定士が法令・鑑定評価基準に基づいて行う専門的な評価です。
実家の査定は「最高額」ではなく「根拠」を比較する
実家の査定を受ける目的は、一番高い数字を探すことではありません。
現在の実家が市場でどの程度評価されるのかを知り、どのような方法なら現実的に売却できるのかを判断することです。
まず机上査定で複数社の考え方を比較し、候補を絞って訪問査定へ進みます。その際は、査定額だけでなく、根拠となる成約事例、想定売却期間、中古戸建・古家付き土地のどちらで売るか、買取という選択肢があるかまで確認してください。
家財処分や大規模な修繕、解体は、査定を受けてからでも判断できます。
実家を残す・管理する・売るという全体の方針から整理したい場合は、実家じまいの進め方もあわせて確認してください。