親が亡くなった後、誰も住まなくなった実家を見ると、「早く片付けなければ」と考えやすくなります。
しかし、死亡後の実家じまいでは、最初に家財を捨てることが必ずしも正しい順番ではありません。
先に確認したいのは、
- 遺言書があるか
- 誰が相続人なのか
- 預貯金や不動産などの財産がどれくらいあるか
- 借金や未払金がないか
- 相続放棄を検討する可能性がないか
です。
特に相続放棄を考える可能性がある場合、価値のある家財を売却したり相続人同士で分けたりすることは慎重に判断する必要があります。
親が亡くなった後の実家じまいは、「捨てる」より先に「相続関係を確認する」と覚えておくと進めやすくなります。
親が亡くなった後の実家じまいはこの順番で進める
- 実家の安全確保と重要書類の保全
- 持家か賃貸か確認する
- 遺言・相続人・財産・借金を確認する
- 相続放棄する可能性を判断する
- 持家なら空き家の管理を始める
- 相続方針が決まったら遺品整理を進める
- 実家を誰が取得するか決める
- 相続登記を進める
- 残す・貸す・売る・解体するを比較する
死亡後の役所・年金・税金などの手続きは、実家じまいとは別に並行して進めます。
1.最初は片付けではなく「保全」から始める
死亡直後の実家では、物を減らすより、後で必要になるものを失わないことを優先します。
特に残しておきたいのは、
- 遺言書
- 預貯金通帳
- 印鑑
- 固定資産税の課税明細書
- 不動産関係書類
- 生命保険関係書類
- 借入関係書類
- 証券会社からの郵便物
- 確定申告書
- スマートフォン
- パソコン
- クレジットカード
などです。
「古い書類だから不要」と判断して一括処分すると、後から財産・借金・不動産を調べる手掛かりを失うことがあります。
実家の中を写真に残しておく
本格的な片付けを始める前に、各部屋や収納の状態を写真に残しておく方法もあります。
特に兄弟姉妹など複数の相続人がいる場合、
- どのような物があったか
- どこに貴重品があったか
- 誰が何を持ち出したか
について、後から認識が食い違うことを減らせます。
冷蔵庫・水漏れ・防犯などは先に対応する
「相続が決まるまで何も触れない」という意味ではありません。
腐敗する食品、漏水の危険、火災・防犯上の問題などは放置しない方がよいでしょう。
例えば、
- 冷蔵庫の生ものを確認する
- 水漏れがないか確認する
- 窓や玄関を施錠する
- 郵便物がたまり続けないようにする
- 庭木が隣地へ大きく越境していないか確認する
といった管理と、高価な家財を売る・財産を分配するといった行為は分けて考えます。
2.実家が持家か賃貸か確認する
「実家」と呼んでいても、親の持家とは限りません。
賃貸住宅なら、相続した不動産をどうするかではなく、賃貸借契約の終了や残置物の扱いが問題になります。
持家の場合
不動産そのものが相続財産になるため、相続人・遺言・相続放棄・相続登記を確認します。
賃貸の場合
家賃等が続く可能性があるため、貸主・管理会社へ早めに連絡します。
ただし、相続放棄を検討している場合は、室内の家財を自己判断で大量に処分する前に、貸主や専門家へ確認した方がよい場合があります。
3.遺言書を確認する
実家を誰が相続するか話し合う前に、遺言書の有無を確認します。
自宅で見つけた自筆証書遺言は、公正証書遺言や法務局で保管されているものなどを除き、家庭裁判所の検認(けんにん)が必要になる場合があります。
封印されている遺言書を見つけた場合は、自分たちだけで開封せず手続きを確認します。
相続人も確認する
兄弟姉妹が把握している家族だけで、相続人を決めつけないようにします。
戸籍を確認すると、家族が把握していなかった相続関係が分かる場合があります。
実家を売る・誰か一人が取得する・共有にする、といった判断の前に法定相続人を確認します。
4.財産だけでなく借金を調べる
実家そのものに価値がありそうでも、それだけで相続した方がよいとは判断できません。
相続では、預貯金や不動産だけでなく、借金なども関係します。
確認するものには、
- 預貯金
- 株式・投資信託
- 土地・建物
- 自動車
- 生命保険
- 住宅ローン以外の借入
- カードローン
- クレジットカード残高
- 事業上の債務
- 未払税金
などがあります。
5.相続放棄の3か月を先に意識する
借金が多い可能性がある、財産の全体像が分からないといった場合には、相続放棄を検討することがあります。
相続放棄は原則として、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述します。
この期間を熟慮期間(じゅくりょきかん)といいます。
3か月以内に財産や借金を十分調べられない場合は、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てられる制度があります。
相続放棄を考えているなら家財の売却・分配を急がない
民法には、相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合、一定の場合を除いて単純承認したものとみなす「法定単純承認(ほうていたんじゅんしょうにん)」の規定があります。
そのため、相続放棄を検討している段階で、
- 親の車を売る
- 高価な家財を売却する
- 預金を相続人で分ける
- 価値のある物を自分のものとして処分する
といったことは慎重に判断します。
「遺品を触ったら相続放棄できない」わけではない
ここは誤解しやすいところです。
実家へ入った。
写真を整理した。
腐った食品を処分した。
こうしたことをしただけで、必ず相続放棄できなくなるという単純なルールではありません。
法律上、保存のために必要な行為などは相続財産を自分のものとして処分する行為と同じ扱いではありません。
一方、どの行為が問題になるかは個別事情によって異なります。
相続放棄の可能性がある家庭では、価値のある物の売却・分配・大規模処分を始める前に確認するのが安全です。
6.空き家になった実家は相続が終わるまで放置しない
相続の話し合いに数か月かかるからといって、実家をその間まったく管理しなくてよいわけではありません。
人が住まなくなった住宅は、
- 換気不足によるカビ
- 雨漏り
- 庭木の繁茂
- 害虫・ねずみ
- 不法侵入
- 建物の破損
などの問題が起こる可能性があります。
誰が定期的に確認するのか決めておきます。
空き家の管理担当を決める
兄弟姉妹がいる場合は、「誰かがやっているだろう」にしないことが大切です。
例えば、
- 郵便物を見る人
- 月1回程度現地を確認する人
- 庭・植木を管理する人
- 水道・電気等を管理する人
- 固定資産税等の書類を保管する人
を決めます。
遠方で管理できない場合は、空き家管理サービスを使う方法もあります。
管理されていない空き家には行政上の問題もある
空き家を放置して周囲へ悪影響が出る状態になると、空家法に基づく対応の対象になる場合があります。
現在は、著しく危険な「特定空家」になる前の段階でも、適切に管理されていない空き家を「管理不全空家」として指導等の対象にする制度があります。
売却するか決まっていなくても、少なくとも管理は止めないようにします。
7.相続方針が決まったら遺品整理を始める
相続放棄をしない方向が固まり、相続人も確認できたら、本格的な遺品整理を進めやすくなります。
家の中の物を、
- 残す
- 相続人で分ける
- 売却を検討する
- 寄付する
- 処分する
に分けます。
捨ててはいけない物から先に分ける
家具や衣類より先に、
- 印鑑
- 通帳
- 不動産書類
- 保険証券
- 年金・税金関係
- 借入関係資料
- 貴金属
- 写真・家系資料
- 本尊や位牌
などを確保します。
業者へ家の中を一括処分してもらうのは、その後です。
兄弟姉妹がいるなら「残す物」を先に共有する
遺品整理では、金銭価値より感情的な価値でトラブルになることがあります。
例えば、
- 写真
- 手紙
- アルバム
- 時計
- 食器
- 親が使っていた家具
などです。
業者へ処分を頼む前に、残したい物がないか相続人・家族で共有します。
8.実家を誰が取得するか決める
家財が片付いても、実家そのものの相続は別です。
遺言で取得者が決まっている場合を除き、必要に応じて相続人同士で遺産分割を行います。
実家については、
- 一人が取得する
- 複数人の共有にする
- 売却して代金を分ける
などの方法があります。
将来売る予定があるなら、「とりあえず兄弟全員の共有名義」にする前に、その後の売却や管理まで考えて決めます。
9.実家を売るなら相続登記を進める
親名義のままの実家を、通常そのまま第三者へ売却することはできません。
誰が不動産を取得するのか決め、相続による名義変更を行ってから、買主への所有権移転へ進みます。
2024年4月から相続登記は義務化されています。
原則として、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請します。
2024年4月1日より前から取得を知っていた未登記不動産については、原則2027年3月31日という期限もあります。
売却前に全部片付ける必要はある?
必ずしもありません。
売却方法によっては、家財が残った状態で査定を受けることもできます。
先に数十万円かけて家財をすべて処分してから査定するより、
- 現況のまま査定する
- 家財処分後の条件を確認する
- 処分費と売却条件を比較する
という順番の方が合理的な場合があります。
特に不動産会社や買取会社によって、残置物への対応が違います。
解体してから売るべき?
これも先に解体すると決めない方がよいでしょう。
古い建物でも、
- 中古住宅として売る
- 古家付き土地として売る
- 買主側で解体する
- 売主が解体して更地にする
など複数の売り方があります。
解体すると元には戻せません。
まず建物がある状態で不動産会社へ査定を依頼し、解体した場合と比較して判断します。
売却前に税金の特例も確認する
相続した空き家には、一定の条件を満たす場合、売却時の譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例があります。
ただし、すべての実家が対象になるわけではありません。
建築時期、相続直前の居住状況、相続後の利用状況、売却時期、売却金額など複数の要件があります。
相続人が3人以上の場合は控除上限が異なる場合もあります。
また、親が老人ホーム等へ入所していた場合でも、一定の要件を満たせば対象になるケースがあります。
「実家を売る」「貸す」「解体する」と決める前に、利用できる税制がないか確認するとよいでしょう。
実家を残す場合
すぐ売らずに残す選択もあります。
ただし、
- 固定資産税
- 火災保険
- 水道・電気
- 庭木管理
- 修繕
- 定期的な訪問
などの負担は続きます。
「とりあえず残す」場合でも、半年後・1年後など見直す時期を決めておくと、何年も空き家のまま放置することを防ぎやすくなります。
実家を貸す場合
賃貸として活用する方法もあります。
ただし、修繕費、管理、入居者対応などが必要になるほか、将来売却するときの税制へ影響する可能性もあります。
売却・賃貸の両方を考えているなら、先に税務上の条件も確認します。
親が亡くなった後の実家じまいチェックリスト
- 実家の施錠・水漏れ等を確認した
- 遺言書を探した
- 通帳・印鑑・重要書類を保全した
- 固定資産税資料を確認した
- 相続人を確認した
- 財産を調べた
- 借金を調べた
- 相続放棄の3か月を確認した
- 放棄判断前に高価な家財を売却していない
- 空き家の管理担当を決めた
- 残す遺品を家族で確認した
- 誰が実家を取得するか決めた
- 相続登記を確認した
- 売却・賃貸・保有・解体を比較した
- 売却前に税制上の特例を確認した
よくある質問
親が亡くなった後、実家は何から始めればよいですか?
家財を捨てる前に、遺言書、相続人、財産と借金を確認します。特に相続放棄には原則3か月の期限があるため、借金の可能性がある場合は先に相続方針を確認してください。
亡くなった直後から実家を片付けてもよいですか?
重要書類や貴重品の確認、腐敗物の処理、建物の安全確保などは必要です。一方、相続放棄を検討する可能性がある場合には、価値のある家財の売却・分配などを先に進めない方がよい場合があります。
冷蔵庫の食品を捨てたら相続放棄できませんか?
単純に「遺品を捨てたらすべて相続放棄できない」というルールではありません。保存・管理のための行為と、相続財産を自分のものとして処分する行為は区別して考えます。個別判断が必要な場合は弁護士等へ確認してください。
親の実家が賃貸だった場合は?
貸主・管理会社へ早めに連絡します。家賃や明渡しの問題があるため持家より時間的余裕が少ないことがあります。ただし相続放棄を検討中の場合は、残置物を自己判断で大量処分する前に確認してください。
実家を空き家のままにしてもよいですか?
すぐ売却できなくても構いませんが、放置は避けます。建物、庭、防犯、郵便、水漏れなどを定期的に確認してください。
売却するなら家財を全部捨ててから査定しますか?
必須ではありません。家財が残った状態でも査定できる会社があります。先に現況査定を取り、片付け費用をかける価値があるか比較する方法があります。
古い実家は解体してから売った方がよいですか?
一律には決められません。中古住宅、古家付き土地、更地のどれが売りやすいかは物件・地域によって違います。解体前に複数の売却方法を比較してください。
親名義のまま実家を売れますか?
通常は、誰が実家を相続するか決めて相続登記を行い、その後に買主への所有権移転を行います。
相続した実家を売ると3,000万円控除を使えますか?
一定の被相続人居住用家屋などについては特例がありますが、建築時期、相続後の利用、売却期限など複数の要件があります。実家なら自動的に使える制度ではないため、売却・賃貸・解体を実行する前に対象になるか確認してください。
死亡後の実家じまいは「片付ける前の確認」が重要
親が亡くなった後の実家を見ると、物の多さが一番大きな問題に見えます。
しかし、先に確認するべきなのは物ではありません。
遺言。
相続人。
財産。
借金。
相続放棄する可能性。
実家の名義。
これらを確認した後に遺品整理を進める方が、後から手続きを戻すリスクを減らせます。
相続が決まるまで時間がかかるなら、その間は空き家の管理を続けます。
その後、実家を取得する人を決め、相続登記を行い、残す・貸す・売る・解体する方法を比較します。
「親が亡くなったから、まず全部捨てる」のではなく、「失ってはいけない情報と選択肢を残したまま、一つずつ決める」のが死亡後の実家じまいの基本です。