親はまだ元気に実家で暮らしている。それでも、家の中の物が少しずつ増え、庭や建物の管理も以前ほど楽ではなさそうに見える。
そんなとき、「今のうちに実家じまいを考えた方がいいのでは」と思っても、親に家を手放す話をするようで切り出しにくいことがあります。
親が元気な段階の実家じまいは、家を売ったり、家財を一気に処分したりすることから始める必要はありません。
本人がこれからどう暮らしたいのかを聞き、家や土地の名義、重要書類、残したい物などを確認しておく。
ここまででも、将来必要になる作業のかなりの部分を整理できます。
親が元気なうちの実家じまいは「家を処分すること」ではない
「実家じまい」という言葉から、家財を全部捨て、最後には家も売却するところまでを想像する人もいます。
しかし、親が現在その家で暮らしているのであれば、実家は親の日常生活の場所です。
子ども側から見れば将来片付ける家でも、親にとっては現在の自宅です。
そのため、親が元気な時期に行う準備は、次のように考えると進めやすくなります。
- 親が今後どこで暮らしたいかを聞く
- 家や土地の情報を確認する
- 重要な書類の場所を把握する
- 本人が不要だと判断できる物から少しずつ整理する
- 家を将来どうしたいか家族で話しておく
今すぐ売却するかどうかまで決めなくても構いません。
「必要になったときに家族が何も分からない」という状態を避けることが、この時期の実家じまいの大きな目的です。
最初に確認するのは、親が今後どう暮らしたいか
家の名義や片付けも大切ですが、その前に確認したいのが親本人の希望です。
例えば、同じ70代の親でも考え方は異なります。
- できる限り今の家で暮らしたい
- 家の管理が大変なので小さな家へ移りたい
- 将来は高齢者住宅や施設も考えている
- 子どもの近くへ移りたい
- 自分が住まなくなったら家は売ってよい
- できれば家族の誰かに住んでほしい
どの考えが正しいというものではありません。
親が元気な段階であれば、「どうしたいか分からない」という回答も含めて本人の考えを聞けます。
一度の話し合いで結論まで出す必要もありません。
むしろ、最初から「この家をどう処分する?」と聞くより、「この家、これからも住み続けたい?」「庭の手入れは最近大変じゃない?」と、現在の暮らしから話を始めた方が自然です。
親が元気なうちに確認しておきたい7項目
1.家と土地の名義
家族が「父の家」「母の家」と思っていても、登記上の名義が必ず現在の認識と一致しているとは限りません。
過去の相続が未整理で、祖父母など以前の世代の名義が残っていることもあります。
まず手元にある固定資産税の課税明細書、登記識別情報通知などを確認します。
正式な登記内容については、不動産の登記事項証明書を取得して確認できます。
親が元気な今なら、「この土地はお父さん名義?」「昔の相続のときに登記した?」と本人へ確認することもできます。
2.不動産関係の書類
家を将来どうするか決まっていなくても、関連書類がどこにあるかは確認しておくと役立ちます。
- 登記識別情報通知や旧来の権利証
- 購入時の売買契約書
- 建築確認関係の書類
- 測量図や境界に関する資料
- 固定資産税関係の書類
- リフォーム・修繕の記録
すべて揃っている必要はありません。
重要なのは、現在何が残っているのかを把握しておくことです。
3.家に毎年どのくらい費用がかかっているか
今後も住み続けるのか、将来手放すのかを考えるとき、家の維持費も判断材料になります。
固定資産税、火災保険、修繕費、庭の管理など、現在どのような費用が発生しているのか確認しておきます。
住宅ローンその他の借入れが残っている場合も、その内容を本人と確認しておくとよいでしょう。
親の財産を子ども側が細かく管理する必要はありません。
「家を維持するのに何が必要なのか」が分かる程度から始めても十分です。
4.残したい家財
親が元気なうちに整理する大きな利点は、本人に聞けることです。
家族から見ると古い家具や書類にしか見えなくても、本人にとっては残したい物かもしれません。
逆に、子どもが「大切だろう」と思っていた物を、親自身は不要と考えていることもあります。
例えば次のような物は、本人の意向を聞いておくと後から迷いにくくなります。
- 写真やアルバム
- 手紙
- 着物
- 時計・貴金属
- 趣味の道具
- 家具
- 仏壇や位牌
- 親族から受け継いだ物
無理に今すぐ処分しなくても、「これは残してほしい」「これは処分してよい」という情報だけ残しておく方法もあります。
5.重要な書類や契約情報の場所
実家の整理では、不動産だけでなく重要書類の所在が分からず困ることがあります。
例えば、次のような物です。
- 保険関係書類
- 年金関係書類
- 銀行等からの重要書類
- 各種契約書
- 印鑑
- 遺言書やエンディングノート等を作っている場合は、その保管場所
暗証番号やパスワードを無理に聞き出すこととは別です。
「どんな重要書類があり、どこに保管しているか」が分かるだけでも、緊急時や将来の整理は進めやすくなります。
6.兄弟姉妹は実家をどう考えているか
親本人との話だけでなく、兄弟姉妹がいる家庭では、それぞれが実家をどう考えているかも確認しておきます。
誰かが将来住みたいと思っているのか。
誰も住む予定はないのか。
親が住まなくなった場合、誰が管理するのか。
まだ親が元気な段階では相続後の結論まで決める必要はありませんが、家族の認識が大きく違うことだけでも早めに分かれば、後から調整する時間を取れます。
7.親が住まなくなった後、誰が家を管理するか
施設入居、入院、子との同居などによって、将来突然実家が空くこともあります。
そのとき、家を売るかどうかが決まっていなくても、誰かが家を管理する必要があります。
例えば、
- 郵便物を確認する人
- 庭や敷地を確認する人
- 家の鍵を持つ人
- 異常があったときに対応する人
などです。
親が元気なうちなら、鍵を誰に預けるかも本人と相談できます。
親への話の切り出し方
実家じまいの話が難しい理由の一つは、子ども側と親側で言葉の受け取り方が違うことです。
子どもは「将来困らないための準備」という意味で話していても、親には「もうこの家には住めないと言われている」「死んだ後の話をされている」と聞こえることがあります。
そのため、いきなり「実家じまいしよう」と言う必要はありません。
例えば、日常生活に近い話題から始められます。
- 「庭の手入れ、大変になってない?」
- 「この家にはこれからもずっと住みたい?」
- 「もし入院したとき、家の鍵は誰が持っていた方がいい?」
- 「この書類ってどこに置いてある?」
- 「この写真や家具は将来どうしてほしい?」
親自身が困っていることから入れば、実家を処分する話ではなく、現在の暮らしを楽にする話として始められます。
親が物を捨てたがらないときは、片付けを目的にしすぎない
親子で実家を整理すると、物を残したい親と、減らしたい子どもで意見がぶつかることがあります。
この場合、子ども側にとって不要かどうかを基準にすると進みにくくなります。
最初は「捨てる」よりも、次のような作業から始める方法があります。
- 明らかなゴミだけ処分する
- 壊れて使えない物だけ確認する
- 同じ物が大量にある場合だけ整理する
- 重要書類を一か所にまとめる
- 思い出の品は別にして触らない
- 判断できない物には「保留」の箱を作る
親が現在生活している家である以上、片付いた状態を子ども側の基準だけで押し付ける必要はありません。
将来本当に処分が必要になったときに困らない程度に、情報と物の所在が整理されていれば、それだけでも前進です。
子どもだけで進めない方がよいこと
親が元気な段階では、本人の意思を確認せずに進めない方がよいことがあります。
- 本人が使っている家財を処分する
- 価値が分からない物を一括処分する
- 家の売却を前提に不動産会社と話を進める
- 解体工事を決める
- 本人の今後の住まいを家族だけで決める
「将来はどうせ必要になるから」という理由だけで先に進めると、親子関係を悪くすることがあります。
親が自分で意思決定できる状態なら、本人がどうしたいかを起点にします。
片付けは「使っていない場所」から始める
親自身も片付けたいと思っている場合は、毎日使う場所より、生活への影響が少ない場所から始めると進めやすくなります。
例えば、
- 物置
- 納戸
- 使っていない子ども部屋
- 長期間開けていない収納
- 明らかな空箱や壊れた用品
などです。
反対に、台所や寝室、普段使う衣類などから急に手を付けると、親の生活を変えることになり、抵抗が強くなることがあります。
1日で家全体を整理しようとせず、「今日はこの棚だけ」と範囲を小さく区切る方法もあります。
判断能力が低下する前だから確認できることがある
親が元気なうちに話しておく意味は、片付けだけではありません。
認知症などによって判断能力が不十分になると、不動産や預貯金などの財産管理や契約について、本人だけで行うことが難しくなる場合があります。
法務省では、こうした人を法律的に保護・支援する制度として成年後見制度を案内しています。
また、本人が十分な判断能力を持っているうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめ代理人や委任する事務を決めておく任意後見制度もあります。
ただし、親が高齢だからといって、すべての家庭が成年後見や任意後見を利用すべきということではありません。
財産状況、本人の希望、家族関係などによって必要性は大きく異なります。
ここで大切なのは、制度を急いで契約することではなく、本人が意思を伝えられる間に、家を将来どうしたいのかを話しておくことです。
親が元気な段階で業者まで決める必要はない
実家じまいについて考え始めたからといって、すぐ遺品整理業者、不用品回収業者、不動産会社などを決める必要はありません。
親が今後も実家で暮らすのであれば、業者を使わず家族だけで少しずつ整理する家庭もあります。
業者への依頼を考えるのは、例えば次のような状況になってからでも遅くありません。
- 大量の家財を期限までに整理する必要がある
- 大型家具を家族だけでは搬出できない
- 実家が遠方で何度も通えない
- 家を売却することが具体的に決まった
- 建物の解体を比較する段階になった
逆に、将来売却する可能性があるなら、家財をすべて処分したり、大規模な修繕や解体を契約したりする前に、不動産としてどのような選択肢があるか確認した方がよいケースもあります。
今やることと、まだ決めなくてよいことを分ける
親が元気な実家じまいでは、すべてを一度に決める必要はありません。
今確認しておきたいことは、
- 親が今後どこで暮らしたいか
- 家や土地の名義
- 重要書類の場所
- 残したい物
- 将来家を管理する人
- 兄弟姉妹の考え
です。
一方、状況によってはまだ決めなくてよいこともあります。
- 家をいつ売るか
- どの不動産会社へ頼むか
- 家財を全部いつ処分するか
- 解体するかどうか
親の生活が変われば、適した選択も変わります。
準備まで済ませておけば、施設への入居、住み替え、相続など実際に状況が変わったときに、必要な判断へ進みやすくなります。
よくある質問
親が元気なのに実家じまいの話をするのは早すぎませんか?
家の売却や処分まで決める必要はありません。本人の希望、家の名義、重要書類の場所、将来残したい物などを確認するだけでも準備になります。親が自分の考えを伝えられる時期だからこそ確認しやすいこともあります。
親が実家じまいの話を嫌がります。どうすればよいですか?
「家を処分する」という話から始めず、現在困っていることから確認してみます。庭の管理、使っていない部屋、緊急時の鍵、重要書類など、暮らしに近いテーマであれば話しやすい場合があります。結論を一度で出す必要もありません。
親の家の物を子どもが先に捨ててもよいですか?
親が現在所有・使用している物については、本人の意思を確認しながら進めるのが基本です。明らかな不要品に見えても、本人にとって必要な物や思い出の品である可能性があります。
親が元気なうちに家を査定してもらうべきですか?
将来の住み替えや売却を具体的に検討しているのであれば、価格の目安を知ることが判断材料になる場合があります。一方、今後も長く住み続ける予定であれば、必ずしも今すぐ査定する必要はありません。
認知症になる前に家を売った方がよいですか?
認知症になる可能性だけを理由に家を急いで売却する必要はありません。本人の生活や希望、将来の住まい、資産状況などを踏まえて判断します。ただし、判断能力が低下すると財産管理や契約に成年後見制度等が関係する場合があるため、本人が元気なうちに希望を確認しておく意味はあります。
親が元気な今だから、「決める」より「聞いておく」ことができる
親が元気なうちの実家じまいでは、家を空にすることを目標にする必要はありません。
本人がこれからどこで暮らしたいのか。
家を将来どうしたいのか。
どの物を残したいのか。
家や土地についてどんな書類があるのか。
こうしたことを本人に聞ける時期であること自体に意味があります。
確認できることから少しずつ整理し、売却や処分については本当に必要になった時点で判断する。
その方が、親の希望を残しながら、将来家族にかかる負担も減らしやすくなります。
実家の片付けや今後の扱いをテーマ別に確認する場合は、実家・家財整理のガイドから必要な内容へ進んでください。