親が亡くなった後、机の引き出しや金庫、仏壇、書類箱などから「遺言書」と書かれた封筒が見つかることがあります。
中身を早く確認したくなりますが、遺言書の種類や保管方法によっては、その場で開封してはいけません。
また、遺言書が見つかったからといって、すぐに不動産を売ったり、銀行預金を分けたりするのも避けた方がよいでしょう。
遺言書を見つけたら、まず原本を見つけた状態のまま保管し、「どの種類の遺言書なのか」「家庭裁判所の検認が必要なのか」を確認することが重要です。
遺言書を見つけたら最初にすること
発見直後は、次の順番で確認します。
- 遺言書・封筒を見つけた状態のまま保管する
- 封印されているものは開けない
- 公正証書遺言か、自筆証書遺言かを確認する
- 自筆証書遺言なら法務局保管か自宅保管かを確認する
- 検認が必要なら家庭裁判所へ申し立てる
- 相続人を確認する
- 遺言の内容と遺言執行者の有無を確認する
- その後に預金・不動産など個別の相続手続きを進める
最初の段階で重要なのは、遺言書の内容を急いで実行することではなく、原本を保全して正しい手続きへつなげることです。
封筒に入った遺言書は開封しない
封筒に「遺言書」と書かれ、封印されている場合は、自分で封を開けないでください。
封印された遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いのもと開封することになっています。
「中身を確認するだけだから」と家族だけで開けるのではなく、そのまま保管します。
封印されているか分からない場合もそのままにする
古い封筒では、封印なのか、単に封をしてあるだけなのか判断しにくい場合があります。
判断がつかないなら、無理に開けず、家庭裁判所や専門家へ確認する方が安全です。
封筒そのものの状態も、遺言書がどのように保管されていたかを確認する資料になります。
遺言書を見つけた場所も記録しておく
可能であれば、遺言書を見つけた場所や状態も記録しておきます。
たとえば、
- 机の引き出し
- 金庫
- 仏壇
- 貸金庫
- 重要書類ファイル
などです。
封筒の表裏や保管状態を写真に残しておく方法もあります。
ただし、封を開けたり、紙を並べ替えたりする必要はありません。
まず遺言書の種類を確認する
死亡後に見つかる遺言書では、主に次の3つを区別します。
| 遺言書 | 主な保管場所 | 家庭裁判所の検認 |
|---|---|---|
| 自宅等で保管された自筆証書遺言 | 自宅・金庫など | 原則必要 |
| 法務局保管の自筆証書遺言 | 法務局 | 不要 |
| 公正証書遺言 | 原本は公証役場等 | 不要 |
この違いが、見つけた後の手続きを大きく左右します。
自宅で見つかった自筆証書遺言は検認を確認する
自筆証書遺言は、遺言者本人が自筆で作成する方式です。
自宅、金庫、貸金庫などで本人が保管していた自筆証書遺言を発見した場合、原則として家庭裁判所の検認手続きが必要です。
遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人は、遺言者が死亡したことを知った後、遅滞なく家庭裁判所へ検認を申し立てます。
検認とは何をする手続き?
検認は、相続人に遺言書の存在・内容を知らせるとともに、検認時点での遺言書の状態を明確にするための家庭裁判所の手続きです。
主に、
- 遺言書の形状
- 日付
- 署名
- 加筆
- 訂正
- 削除
などを確認し、その状態を記録します。
遺言書が後から偽造・変造されることを防ぐ意味があります。
検認は「遺言書を有効にする手続き」ではない
ここは誤解されやすいところです。
家庭裁判所で検認を受けても、
「この遺言書は法律上必ず有効です」と家庭裁判所が認定するわけではありません。
検認は、遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。
形式の不備、遺言能力、偽造の疑いなどについて争いがある場合は、別の法的問題として検討する必要があります。
法務局に保管された自筆証書遺言は検認不要
自筆証書遺言でも、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用していた場合は、家庭裁判所の検認は必要ありません。
法務局では遺言書の原本と画像データが保管されています。
相続開始後は、相続人・受遺者・遺言執行者等が所定の証明書を請求して内容を確認します。
法務局に遺言書があるか分からない場合
亡くなった人が「法務局へ遺言書を預けた」と話していたものの、家族が詳しいことを知らない場合があります。
また、遺言書の保管証らしきものが見つかる場合もあります。
相続人等は、法務局へ「遺言書保管事実証明書」を請求することで、自分に関係する遺言書が保管されているか確認できます。
遺言書保管事実証明書とは?
遺言書保管事実証明書は、特定の人について、請求者に関係する遺言書が法務局へ保管されているかどうかを確認するための証明書です。
2026年9月時点の手数料は1通800円です。
保管されていることが分かった場合は、次に遺言書情報証明書を請求して内容を確認できます。
遺言書情報証明書とは?
遺言書情報証明書には、法務局で保管されている遺言書の画像情報が印刷されています。
相続人等は、この証明書によって遺言書の内容を確認できます。
法務局保管の遺言書原本そのものが相続人へ返却されるわけではなく、遺言書情報証明書を各種相続手続きで利用します。
2026年9月時点の交付手数料は1通1,400円です。
法務局保管の遺言書は全国の遺言書保管所で手続きできる
遺言書情報証明書や遺言書保管事実証明書の交付請求などは、原本を保管している法務局でなければならないとは限りません。
相続人等は全国の遺言書保管所で一定の手続きを行えます。
遺言書情報証明書については郵送請求もできます。
公正証書遺言なら検認は不要
公正証書遺言は、公証人が関与して作成し、原本が公証役場等で保管される方式です。
公正証書遺言は、家庭裁判所で検認を受ける必要がありません。
遺言者の死亡後は、遺言の謄本等を利用して相続手続きを進めます。
公正証書遺言が作られているか調べることもできる
家から遺言書が見つからなくても、亡くなった人が公正証書遺言を作っている可能性があります。
平成元年以降に作成された公正証書遺言については、日本公証人連合会の遺言検索システムによって、遺言の有無と保管している公証役場を調べられます。
相続開始後は、相続人等の利害関係人が最寄りの公証役場へ申し出ることができます。
遺言検索の申出自体は無料です。
公正証書遺言の検索で必要になる主な書類
日本公証人連合会では、相続人が検索を申し出る際の代表的な書類として、
- 遺言者が死亡したことを証明する除籍謄本等
- 申出人が相続人であることを証明する戸籍謄本
- 申出人の本人確認書類
などを案内しています。
実際の必要書類は申し出る公証役場へ確認してください。
「公正証書」と書かれたコピーを見つけた場合
自宅から公正証書遺言の謄本や正本らしきものが見つかることがあります。
公正証書遺言の場合は自宅にある紙を家庭裁判所へ検認に出す必要はありません。
記載されている公証役場や公証人、作成年月日などを確認し、必要に応じて公証役場へ問い合わせます。
秘密証書遺言が見つかった場合
遺言には「秘密証書遺言」という方式もあります。
秘密証書遺言は、公証人に遺言書の存在を証明してもらう方式ですが、遺言書の内容自体を公証人が保管する制度ではありません。
秘密証書遺言には法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用できません。
相続開始後には家庭裁判所の検認が必要です。
すでに遺言書を開封してしまった場合は?
遺言書だと知らずに封筒を開けてしまうことがあります。
その場合も、遺言書を捨てたり、書き込んだり、封を貼り直したりせず、見つけた状態をできるだけ保ってください。
自宅等で保管されていた自筆証書遺言など、検認対象となる遺言書であれば、開封後であっても家庭裁判所へ検認を申し立てることになります。
開封したことだけを理由に「もう遺言書は使えない」と自己判断して処分しないでください。
遺言書へメモを書き込まない
遺言書を見つけた後に、
- 相続人が日付を書く
- 名前を補足する
- 線を引く
- 付箋を貼って文字を書き込む
といったことは避けます。
遺言書の原本は、そのままの状態で保管してください。
ページが複数ある場合も並べ替えない
複数枚の紙が一緒に保管されている場合、どこまでが遺言書なのか判断できないことがあります。
自分の判断で不要と思った紙を捨てたり、順番を入れ替えたりせず、一式をそのまま保管します。
遺言書が複数見つかった場合
異なる日付の遺言書が複数見つかることがあります。
「新しい日付だけ残して、古いものは捨ててよい」とは判断しないでください。
後の遺言が前の遺言と抵触する場合など、遺言の効力関係について法的な判断が必要になることがあります。
見つかった遺言書はすべて保管します。
遺言書を見つけた直後に遺産分割協議を進めない
遺言書がある場合、法定相続分とは異なる財産の分け方が指定されていることがあります。
そのため、遺言書の確認前に相続人だけで遺産分割協議を確定させたり、財産を分けたりするのは避けた方がよいでしょう。
まず遺言の内容と有効性に関する問題の有無を確認します。
銀行預金を先に分けない
遺言書には、
- 預金を特定の相続人へ相続させる
- 相続人以外へ遺贈する
- 遺言執行者を指定する
といった内容が書かれている場合があります。
遺言書の確認前に銀行口座の払戻し・分配を進めると、後から調整が必要になる可能性があります。
実家・不動産を先に売却しない
実家を売却する予定だったとしても、遺言書が見つかった場合は一度立ち止まります。
不動産の承継先が遺言で指定されている可能性があるためです。
誰が不動産を取得するのか、遺言執行者が指定されているかを確認してから、相続登記・売却へ進みます。
遺言執行者が指定されているか確認する
遺言書には「遺言執行者」が指定されている場合があります。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人です。
遺言執行者が指定されている場合は、その人へ遺言者が亡くなったことと遺言書が見つかったことを連絡します。
遺言執行者が書かれていない場合
遺言執行者が指定されていないからといって、遺言書自体が無効になるわけではありません。
一方、遺言内容によって遺言執行者が必要になる場合があります。
遺言執行者がいない場合などには、利害関係人の申立てにより家庭裁判所が遺言執行者を選任する制度があります。
遺言に書かれていない財産がある場合
遺言書があっても、すべての財産について記載されているとは限りません。
たとえば、
- 遺言作成後に取得した財産
- 記載漏れの預金
- 新たに購入した不動産
などが残ることがあります。
遺言に記載されていない財産をどう分けるかは、遺言の文言や相続関係を確認して判断します。
遺言書があっても相続人調査は必要
遺言書が見つかったからといって、戸籍による相続人確認がすべて不要になるわけではありません。
家庭裁判所の検認では相続人を確認する必要があり、銀行・不動産等でも相続関係資料を求められることがあります。
誰が法定相続人になるのかは、相続人はどう調べる?戸籍で法定相続人を確定する方法で詳しく解説しています。
検認申立てでは出生から死亡までの戸籍が必要になる
たとえば東京家庭裁判所では、遺言書の検認申立てについて、
- 申立書
- 遺言者の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍
- 相続人全員の戸籍
などを案内しています。
法定相続情報一覧図を戸籍の束に代えて利用できる場合もあります。
戸籍の集め方は、相続の戸籍はどう集める?出生から死亡までの取り方も確認してください。
検認申立ての段階では遺言書原本を送らない場合がある
東京家庭裁判所では、遺言書原本は申立時ではなく、検認期日当日に提出するよう案内しています。
手続方法は申立先の家庭裁判所の案内を確認してください。
検認期日は相続人全員が出席しないとできない?
裁判所から相続人へ検認期日の通知が行われますが、申立人以外の相続人が全員出席しなければ検認できないという仕組みではありません。
出席するかどうかは各相続人が判断します。
申立人は遺言書原本など裁判所から指示されたものを持参します。
検認後に相続手続きを進める
検認対象の遺言書では、検認が完了した後、必要に応じて検認済証明書を取得して、
- 不動産の相続登記
- 預貯金の相続手続き
- 株式・証券
- その他財産の名義変更
などへ進みます。
ただし、繰り返しになりますが、検認済みであることと遺言の有効性に争いがないことは同じではありません。
遺言書の内容に不自然な点がある場合
たとえば、
- 署名が本人の筆跡と大きく違う
- 作成当時の判断能力に疑問がある
- 不自然な訂正が多い
- 複数の遺言書で内容が大きく違う
- 一部の相続人だけが遺言書を長期間保管していた
- 遺留分に関わる問題がありそう
場合は、家族だけで「有効」「無効」と決めないようにします。
遺言の有効性や相続人間の争いが生じている場合は、弁護士へ相談を検討してください。
遺言書と一緒に見つけた資料も捨てない
遺言書の周辺に、
- 財産一覧
- 銀行通帳
- 不動産資料
- 保険証券
- 公証役場の書類
- 法務局の保管証
- 遺言執行者の連絡先
- エンディングノート
などが一緒に保管されている場合があります。
遺言書本体とは法的な位置付けが異なる場合がありますが、相続財産・契約を確認する重要な手掛かりになります。
内容を確認するまでは捨てずに保管してください。
エンディングノートは遺言書と同じ?
「財産は長男に任せる」などと書かれたエンディングノートが見つかる場合があります。
エンディングノートに本人の希望が書かれていても、それだけで法定の方式を満たした遺言書になるとは限りません。
一方、文書の名称が「エンディングノート」であっても、内容・形式によって法的評価が問題になる可能性があります。
判断が難しい場合は原本を残したまま専門家へ確認してください。
遺言書らしいメモもすぐ捨てない
正式な遺言書に見えない手書きメモが見つかることもあります。
形式要件を満たすかどうかは別として、家族が自己判断で捨ててしまうと後から確認できません。
相続関係の書類と一緒に保管しておきます。
遺言書がないと思っても検索できる制度がある
自宅を探しても遺言書が見つからない場合でも、
- 法務局の自筆証書遺言書保管制度
- 公証役場の公正証書遺言検索制度
を利用できる可能性があります。
生前に親が「遺言を書いた」と話していた場合などは確認を検討できます。
遺言書を探す場所
自宅保管の遺言書がある可能性を調べる場合は、重要書類が保管されやすい場所を確認します。
- 金庫
- 机・書斎
- 仏壇
- 重要書類ファイル
- 銀行の貸金庫
- 税理士・弁護士等へ預けた資料
故人が遺言書を預けた可能性のある専門家が分かっている場合は、死亡を伝えて確認します。
遺言書を見つけた後のチェックリスト
- □ 原本を見つけた状態のまま保管した
- □ 封印された封筒を開けていない
- □ 遺言書へ書き込みをしていない
- □ 遺言書の種類を確認した
- □ 公正証書遺言か確認した
- □ 法務局保管の自筆証書遺言か確認した
- □ 検認が必要か確認した
- □ 相続人を確認した
- □ 必要な戸籍を集めた
- □ 遺言執行者の記載を確認した
- □ 遺言書が複数ないか確認した
- □ 遺言の確認前に財産を分けていない
- □ 不動産を売却していない
- □ 預金を無断で分配していない
よくある質問
遺言書を見つけたらまず何をすればいいですか?
遺言書原本を見つけた状態のまま保管し、封印されている場合は開封せず、遺言書の種類と検認の要否を確認してください。
自筆証書遺言はすべて検認が必要ですか?
いいえ。法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管された遺言書は、家庭裁判所の検認が不要です。自宅等で保管されていた自筆証書遺言は原則として検認が必要です。
公正証書遺言にも検認が必要ですか?
必要ありません。公正証書遺言は家庭裁判所の検認を経ずに相続手続きへ利用できます。
封筒に入った遺言書を開けてもいいですか?
封印されている遺言書は自分で開封せず、家庭裁判所で相続人等の立会いのもと開封します。判断できない場合もそのまま保管してください。
遺言書をすでに開けてしまいました
捨てたり、書き込んだり、封を貼り直したりせず現状を保ってください。検認が必要な遺言書であれば、開封後でも家庭裁判所への検認申立てを進めます。
検認を受ければ遺言書は必ず有効ですか?
いいえ。検認は遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。有効性について争いがある場合は別途検討が必要です。
法務局に遺言書があるか調べられますか?
相続開始後、相続人等は遺言書保管事実証明書を請求して、自分に関係する遺言書が法務局へ保管されているか確認できます。
公正証書遺言があるか調べられますか?
平成元年以降に作成された公正証書遺言は、相続開始後に相続人等の利害関係人が公証役場の検索制度を利用して、遺言の有無と保管公証役場を確認できます。
遺言書が複数見つかったら新しいものだけ残せばいいですか?
自己判断で古い遺言書を捨てないでください。複数の遺言の効力関係は内容によって判断が必要になるため、すべて原本を保管します。
遺言書があれば相続人を調べなくてもいいですか?
相続人確認が必要になる手続きがあります。検認でも相続人を確認するための戸籍等が必要です。遺言がある場合でも相続人調査を省略できるとは限りません。
遺言書を見つけたら「読むこと」より「正しい手続きへつなぐこと」を優先する
遺言書を見つけると、家族としては早く中身を知りたくなるものです。
しかし、発見直後に大切なのは、中身を急いで読むことではありません。
まず、
- 原本を保全する
- 封印された遺言書を開けない
- 自筆・法務局保管・公正証書を区別する
- 検認が必要か確認する
- 相続人を確定する
ことから始めます。
その後に遺言の内容、遺言執行者、対象となる財産を確認し、預金、不動産、その他の相続手続きへ進みます。
特に自宅等で見つかった自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認が必要になる可能性が高いため、見つけた状態を変えずに保管することが重要です。
相続全体の進め方については、相続は何から始める?遺言・相続人・財産確認から進める順番も確認してください。
相続人を確定する方法は、相続人はどう調べる?戸籍で法定相続人を確定する方法で詳しく解説しています。